The Golden Eight - Encore! / The Kenny Clarke - Francy Boland Big Band

Golden Eight-Encore!

あけましておめでとうございます。今年も宜しく。

年末年始はケニー・クラーク=フランシー・ボラン・ビッグバンド(Clarke-Boland Big Band, CBBB)の音源を中心に聞いていた。といっても大して深い理由があるわけでは無くて、数年前CDでまとめて再発されたのを先日大量に買い込んだのにその後聞く暇が無く、そのまま積みっぱなしになっていたのを今頃になって消化した、というだけの話。

1956年以降フランス・パリに居を移していたモダン・ジャズ・ドラミングの開祖ケニー・クラーク(1914-1985)と、ベルギー出身の作編曲家でジャズ・ピアノも弾くフランシー・ボラン(1929-2005)が組んで結成したのがCBBBである。今回調べてみて、このバンドが思ったよりも短命であったことに気づいた。1961年に結成、1972年に解散(1976年にクラーク抜きながら主要メンバを集めて一時的に再結成したことはある)なので、全期間としては11年になるが、主要作の大半は1967年から1970年の間に集中しているので、実質的には3年ほどに過ぎないとも言えるのだ。

ビッグバンドの黄金期は第二次大戦戦前まで、というのが定説ではないかと思う。戦後は音楽的流行の変遷に加え、大所帯のビッグバンドという形態自体が経済的にペイしなくなってしまったため、ごく限られたビッグバンドしか生き延びることが出来なかった。そんな中、ある意味時代錯誤的なCBBBが成功を収めた理由としては、もちろんジャズ史に名を残すドラマーであるクラークと優秀な作編曲家であるボラン、そして辣腕の仕掛け人だったジジ・キャンピの才覚もあるが、「この時期の」ヨーロッパで結成されたというのが大きいのだろう。本国アメリカにおける人種差別やジャズの人気低下に嫌気が注した一流ジャズメンが多く欧州へ移住し、食い扶持は主にスタジオ仕事で稼いでいたものの、ジャズの腕の見せどころを探していたという流れが一方であり、他方ではヨーロッパのジャズが成熟し、本場アメリカのミュージシャンと互角に渡り合えるだけの力量を持つ世代が輩出されたという流れがあった。ジョニー・グリフィンやサヒブ・シハブ、ベニー・ベイリーらは前者の代表で、ドゥシュコ・ゴイコヴィチやアルバート・マンゲルスドルフ、ケニー・ウィーラーは後者の代表と言えよう。こうした優れた人材を、いわば「割安で」集められたのがCBBBの強みだったと思われる。1970年以降は欧州移住組の多くが状況が好転したアメリカへ帰国するようになり、一方ヨーロッパ出身者は多くがフリージャズやより先鋭的なスタイルを志向するようになっていったので、このバランスは崩れてしまった。そういう意味では、奇跡的なタイミングで成立したバンドだったとも言える。

私がCBBBを好きなのは、変な言い方だが、たぶんCBBBがあまり「ビッグバンド的」ではないからだ。もちろん手練れ揃いなので合奏部分も天下一品だが、基本的に個人芸というか各人のソロが重視されているため、普段は小編成ものばかり聞いている私がビッグバンドものを聴くときにどことなく感じる違和感というか、「作り物っぽさ」が薄い。そのへんはやはり私が好きなジェリー・マリガンのコンサート・ジャズ・バンドとも似ているが、どちらかと言えばシンプルなアレンジが基調でカルテットを素直に大編成へ拡大したという感が強いマリガン・バンドと比べ、ビッグバンドならではの音の厚みや色彩感、豊潤さをも濃厚に備えているところがCBBBならではの魅力だと思う。これはもちろんアレンジャーとしてのボランの手腕の確かさを示しているわけだが、加えてそこにクラークのツボを押さえた推進力抜群のドラミングが入ることで、単なるきれいごとに終わらせない迫力が加味されるのである。

CBBBの実質的デビュー作として知られるのがThe Golden 8だ。1961年5月18日と19日に録音され、後にブルーノート・レーベルが原盤をキャンピから買って発表したもので、まあタイトル通り8人編成なので「ビッグ」バンドとまでは言えないような気もするが、後にCBBBのコアになるメンツが揃ったという点でも重要な録音である。ビッグバンドものが少ないブルーノートにとっても異色の作品と言えよう。で、今回取り上げたこちらはアンコールと銘打たれている通り、5日後の5月23日と24日に同じメンツ(に、これまたCBBBのレギュラーだったパーカッションのファッツ・サディが2曲で加わる)で録音した未発表音源である。スタジオ録音なので音質は別に悪くないが、モノラルなので、おそらくマスターテープではなくリファレンス・ミックスか何かから起こしたのではないかと思う。どういう経緯で眠っていたのか知らないが、内容も本編と遜色なく、曲のかぶりも少ない。やや地味ではあるが、CBBBの原型とでも言うべきスウィンギーな快演が楽しめる。どちらかというと、個人的には本編よりもこちらのほうが好きだったりして…。

アンコールのほうは無かったので本編から一曲。こんな感じです。

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