Francy Boland THE Orchestra (Blue Flame / Red Hot / White Heat)

The Orchestra

CBBBことケニー・クラーク=フランシー・ボラン・ビッグ・バンドは1972年に解散したのだが、4年後の1976年に再び集まって録音を残している。ボランが作編曲とピアノ(一部エレピ)を務めるのは当然として、CBBB結成の仕掛け人であるジジ・キャンピがプロデュース、ベニー・ベイリーやケニー・ウィーラー、トニー・コーやロニー・スコット、サヒブ・シハブといったかつてのレギュラーもほぼ揃うという豪華な陣容で、MPSレーベルに「Blue Flame」「Red Hot」「White Heat」と銘打って3枚もLPを残しているのだ。これはその時の全録音を2枚組CDにまとめたもの。

「ほぼ」と書いた通り、かつてのCBBBの主要メンバが全員揃ったわけではない。というか、実はこの時の録音には、双頭リーダーの片割れであるケニー・クラークが不参加なのだ。どういう経緯で参加しなかったのか、そもそも解散の理由もよく知らないのだが、もしかすると喧嘩別れだったのかもしれない。いずれにせよ、タイトルもCBBBではなく、フランシー・ボラン & ジ・オーケストラ名義となっている。大体同じメンツなのだから音楽的にも同じだろうと思うとさにあらず、どこか違う。正直に言うと、なんとなくつまらないのである。これは、クラークの不在によってもたらされた穴だと私は思う。

私は長いこと「ドラマーとしての」クラークの良さを理解していなかった。ビバップの創始者の一人であり、ジャズ・ドラミングを革新して現在にまでつながる定型を作り上げたという意味で、クラークがジャズ史的に超偉い人であることはもちろんよく知っていたが、純粋にそのドラミングだけ見れば、バタバタうるさくて繊細さに欠けると思っていたのである。

ところが、いざクラークがいなくなったこのバンドは、小綺麗にまとまってはいるものの、推進力というか、前へ前へという勢いに欠けている。ドラムスを担当しているケニー・クレアは、長年CBBBに所属してクラークとツインドラムを戦わせていた人で、決して悪いドラマーではないし、むしろ技術的にはクラークよりもうまいくらいなんじゃないかと思うのだが、やはり違う。これはドラマーが一人になったのでパワーが落ちた、というだけではないと思う。このCDをしばらく聞いた後で、改めてクラーク入りのCBBBの演奏を何か聞いてみると、荒いというか粗いんだけれども、押すべきところは押し、引くべき所は確かに引いていることがよく分かるのだ。絶妙にメリハリがついているのである。ボランの華麗なウワモノサウンドは昔のままどころかいよいよ洗練を極めているのだが、クラークの野性味溢れるドラムスがボトムからガンガン煽ってくれないと、ムードミュージック的というか、かったるく感じられるところが出てきてしまうのである。

そういうふうに引き合いに出されるとご本人は怒ると思うが、不在によって初めてその価値が分かるジャズメンというのがいる。例えばカウント・ベイシーのバンドであればフレディ・グリーン、マイルス・デイヴィスのバンドであればロン・カーターがそうだった。普段はあんまり存在感がないのだが、何らかの事情で不在だったり代役が立てられたりすると、途端に「あの」サウンドが出なくなる。そういった形でしか真価が顕れないのである。ケニー・クラークは、まあ存在感が無いということは無かったけれども、本質的にはそんなジャズマンの一人なのだった。

「Red Hot」から1曲。CDだと2枚目の冒頭。華やかで、決して悪いわけではないんですけど。

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