2015年に出たジャズの個人的ベスト10

一応2015年に出たジャズのベスト10を選んでおこうと思う。番号は振ってあるが必ずしも順位を意味しない。思い出した順である。今年はかなり豊作で、選から漏れた(というか単に私が忘れている)ものの中にも優れた作品がいくつもあった。最近は昔ほど新譜を買わなくなったので、捕捉できていないものも多くあるだろう。他に面白いものがあれば教えてください。

1. Mary Halvorson / Meltframe

Meltframe

注目している異才女性ギタリストのメアリー・ハルヴァーソンが、初のソロ・ギター作品を出した。オリバー・ネルソン(!)の曲の素っ頓狂な解釈から始まり、他にオーネットやポール・ブレイがらみの曲を取り上げるなど、レパートリーからして私好みである。もちろん演奏も良く、カラカラに乾いたサウンドの中からちゃんと叙情味が立ち上ってくるのが素晴らしい。


2. Makaya McCraven / In The Moment

In the Moment

マカヤ・マクレイヴンはアーチ―・シェップらと共演していたドラマー、スティーヴン・マクレイヴンの息子で、彼自身もドラマーだが、ヒップホップなども取り入れて総合的な音作りに取り組んでいる。ジャズ・プロジェクトをやるときのマッドリブとスタンスが似ているが、今プロパーでジャズを演奏する人たちよりも、彼らのようにちょっと引いたスタンスで活動する人のほうが、かつてのジャズが持っていた骨っぽさやギリギリな感じをじわっとうまく表出できているのが面白い。ヤバさも演出可能、というだけのことかもしれないが。


3. Kamasi Washington / The Epic

The Epic

かつてはアメリカの東西でだいぶ音楽の性格が異なり、イーストコーストは粗いがガッツのあるジャズ、ウェストコーストは洗練されているがやや線の細いジャズ、というような区別がある程度出来たものだが、最近はどうも逆転したようで、イーストはニューヨークを中心に繊細でインテレクチュアルな音楽をやる人が多く、ウェストはサンフランシスコを中心に昔のスピリチュアル・ジャズを蘇らせたような、よく言えば押しの強い、悪く言えば誇大妄想的なサウンドが増えているように思う。この作品もCD3枚組というボリュームで、コーラスやら何やらも入った大作だが、カマシ・ワシントンのサックスの音もなかなか根性が入っているし、作り物感が無く楽しく聞けた。


4. Henry Threadgill / In For A Penny, In For A Pound

In for a Penny, in for a Pound

ヘンリー・スレッジル3年ぶりの新譜。しかもCD2枚組。相変わらず聞けば一発でスレッギルと分かる、スレッジル的としか言いようがない特異な音楽をやっている。強烈な個性が失われて久しいジャズにおいて、スレッジルは貴重な存在だ。長生きも来日もしてもらいたい。ジャック・デジョネットがスレッジルらAACMの生き残りを集めて行ったライヴの実況盤Made in Chicagoもなかなか良かった。最後に収録された曲が、10 Minutesというタイトルなのに6分しかないあたり、歯止めの利かない老人力が感じられるではないか。


5. Mathias Eick / Midwest

Midwest

基本的にトランペットはリー・モーガンやフレディ・ハバードのような派手でヤクザな音が好みで、アート・ファーマーやデイヴ・ダグラスといった素直にポーと音を出すようなタイプの人はそんなに好きではないのだが、このマシアス・エイクという人の場合はラッパの音のけれん味の無さが、いかにもアメリカ中西部という感じのおおらかでフォーキーな曲調とよくマッチしていて(エイクはノルウェー人のようだが)、なかなか良い味わいである。四谷いーぐるの新譜試聴会「New Arrival」で聞いて、その場で思わず買ってしまった一枚。


6. John Schott / Actual Trio

Actual Trio

ベテラン・ギタリスト、ジョン・ショットが率いるギター・トリオの作品。2011年に結成されたグループで、以来同じメンバで演奏しているらしく、シンプルな編成ながら三者の緊密な絡み合いが素晴らしい。特にリーダーのギターとドラマーのジョン・ヘインズの呼応はテレパシー的とすら言える。ユダヤと前衛の牙城、Tzadikレーベルから出ているのでそれだけでビビる人がいそうですが、どなたにでも安心して推薦できます。というか今年は結局予定が合わず出来なかったのだが、なんとか来年こそはTzadikレーベルの傑作群を紹介するレクチャーをやりたいものである。


7. Steve Coleman / Synovial Joints

Synovial Joints

スレッジル同様、M-BASEの総帥スティーヴ・コールマンも孤高の存在のままひたすらオリジナリティを深化させてきた人だが、この新作は例によってM-BASE的なポキポキしたメロディとつんのめるようなリズムフィギュアが総動員され、実に面白い。しかも今回は大編成のホーン・セクションが随所に登場するうえストリングスまで入っていて、途中はドラマティックな構成の組曲仕立てになっているなど、割にとっつきやすいように思う。


8. Ran Blake / Ghost Tones

Ghost Tones

今年で御年80歳を数える大ベテラン・ピアニスト、ラン・ブレイクが、ニュー・イングランド音楽院で同僚だった故ジョージ・ラッセルに捧げた作品。ソロ、デュオ、(たぶん教え子たちとの)アンサンブルといろいろな編成でラッセルゆかりの曲を淡々と演奏する。シンセも弾いていて、それがなんとも珍味である。ブレイクといえば昔アンソニー・ブラクストンとデュオでやはり淡々とスタンダード曲を演奏するという作品があって、一時そればかり聞いていたくらいはまったのだが、この新作もなかなかよい。あともう一枚くらいいけるといいけど。


9. Rich Halley 4 / Creating Structure

Creating Structure

このリッチ・ハリーという人のことは最近まで全く知らなかったのだが、なかなかおもしろいミュージシャンである。1947年生まれというから相当なベテランだが、オレゴン州ポートランドを拠点としていたのであまり知られていなかったようだ。大枠としてはフリー・ジャズに入るのだろうが、決して垂れ流しフリーではなく、リズムがはっきりしていてノリが良く楽しく聞ける(そもそもフォービートで演奏することも多い)。オーネットとソニー・ロリンズを掛けあわせたような独特の味わいがある。周りを固める連中もなかなかの腕利きばかりだ。


10. Maria Schneider / The Thompson Fields

Thompson Fields

まあ、これは誰の2015年ベストに顔を出すであろうアルバムで、私が今さら何か言う必要はないのだが、マリア・シュナイダーは相変わらず安定していますねえ。素晴らしいビッグバンドです。でもネット上にめぼしい動画がない…。

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