Charlie Parker Records: The Complete Collection Vol. 1

Charlie Parker Records: The Complete Collection

むかしむかし、あるところに、Charlie Parker Recordsというレコード会社があった。チャーリー・パーカーの3番目の妻で法定相続人だった(映画「バード」に出てきたチャン・パーカーは4番目で内縁の妻)ドリス・パーカーが1961年、音楽プロデューサーのオーブリー・メイヒューと共に設立したものである。パーカーがらみの秘蔵音源(というかブートレグのオフィシャル化)に加え、若干の新録音や他レーベルから購入した音源の再リリースなども行ったものの、1965年には活動を停止している。

比較的最近になって、このCharlie Parker Recordsが発表した全音源をまとめ、ボックスセットで出そうと考えた奇特な会社があった。マイルスとかコルトレーンとか、ミュージシャン単位の作品集成は多いが、レーベル単位の集成は割と珍しい(DialレーベルDebutレーベルの例はあるので皆無ではないが)。CD 30枚組、でも値段は実売5000円程度(私は3000円で買った)。普通はこの枚数なら桁が一つか二つ違う。怪しすぎるのである。だから買った。

とりあえず、パーカー関係の音源は今ではもっと整理されたまともな形でリリースされているので、パーカー狙いで買う意味はほとんど無い。一方、LP起こしではなくちゃんとマスターテープを使ったようで、新発見の未発表音源などといったものこそ皆無なものの、音質はそれほど悪くない。そして、現在このボックスセットでしか手に入らない貴重な音源もある。しかも結構良い演奏なのである。

一応それなりに立派なブックレットが付いてくるのだが、内容はチャーリー・パーカーのおおざっぱな伝記とあまり当てにならないディスコグラフィーだけで、そもそもパーカーが死んだ後に設立されたレーベルなのにパーカーの伝記載せても意味ねえだろうとか思うわけですが、まあ値段が値段なので文句を言っても仕方が無い。しかし音源の由来が分からないと不便というか気持ち悪いので、調べた結果をメモしておく。


先にも書いた通り、Charlie Parker Recordsがリリースした作品はパーカー関係の音源とそれ以外に大別されるわけだが、このボックスセットではパーカー音源はCD 1枚、それ以外は基本2イン1で、オリジナルLP2枚をCD 1枚にまとめている。パーカー音源もまとめればもっとCD枚数を少なく出来たんじゃないかと思うのだが、おそらくそこには大人の事情があるのだろう。

ディスク1は、バリトンサックス奏者、セシル・ペイン名義の2作をまとめている。前半は元々「Cecil Payne Performing Charlie Parker Music」というタイトルでリリースされたもので、トランペットのクラーク・テリーとの二管クインテット。1961年3月の新録である。LPでは「Shaw Nuff」や「Cool Blues」といったタイトルで70年代にリイシューされたようだが、CD化はされていないのではないかと思う(数年前にFresh Soundから出たCecil Payne & Duke Jordan 1956-1962 Sessionsには未収録、Amazon MP3には怪しげなのがある)。タイトル通りパーカーゆかりの曲を演奏しているが(「Communion」だけペインの曲)、テリーの軽やかなトランペットとペインの鈍重なバリトンの対比の妙もあってなかなか悪くない出来である。デューク・ジョーダン、ロン・カーター、チャーリー・パーシップという、意外と珍しい組み合わせのリズムセクションが手堅いバッキングを見せていてこれがまた良い。ちなみに3曲目は「Relaxin’ At Camarillo」となっているが、実は「Cheryl」である。

後半7曲は「The Connection」というタイトルで、1962年3月14日から16日にかけての新録音。薬物中毒のジャズ・ミュージシャンたちの生態を描いた、ジャック・ゲルバー作の同名オフ・ブロードウェイ演劇の劇伴音楽として作曲・演奏したもの…と言われると、普通はフレディ・レッドを思い浮かべると思うのだが、どうもレッドが辞めた後、ペインとケニー・ドリューが改めて曲を作り直したらしい。そういえばデクスター・ゴードンもThe Connectionの音楽を作っていたような気がするのだが(Ernie’s Tuneとか)、当時は劇の公演ごとに劇伴音楽を作り直していたのだろうか。演奏は、先のクインテットにトロンボーンのベニー・グリーンが加わったもので、これもなかなか良い演奏である。

ペインはモダン・バリトンの先駆者で、練達の奏者だったと思うのだが、その割にジェリー・マリガンらと比べてなんとなく知名度も評価も低いのは、今ひとつアイデアに冴えがないというか、聞いても印象が薄いからではないかと思う。この2作でも、奏者として印象に残るのは結局テリーの明るいトランペットだったりして…。後半における作曲も、ペインが作った3曲よりはケニー・ドリューが作った4曲のほうが起伏に富んでいるような気がしなくもない。ちなみに後半に関しては、わざわざLe blanc ‘Noblet’ Baritone Saxphoneを使っていますと明記されているのだが、名のある楽器なんですかねえ。

前半冒頭の一曲。

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