Charlie Parker Records: The Complete Collection Vol. 2

Charlie Parker Records: The Complete Collection

謎のレーベルCharlie Parker Recordsの話の続き。ディスク2はデューク・ジョーダンに加え、伝説のピアニスト、サディク・ハキムをフィーチャーしている。

ディスク2の前半はデューク・ジョーダン名義のセッションで、1962年1月12日の録音である。ジョーダンのピアノ、エディ・カーンのベース、アート・テイラーのドラムスというリズム・セクションに、ソニー・コーンのトランペットとチャーリー・ラウズのテナーサックスという渋いメンツを揃えたクインテット編成。

タイトルのLes Liaisons Dangereusesは「危険な関係」という邦題で良く知られているラクロの小説で、ここでは何度か映画化されているうちの1959年ロジェ・ヴァディム監督作のことを指す。この映画の音楽をジョーダンが担当したのだが、当時のフランスでは映画音楽に外国人を起用することが法律で禁じられていたので(?)、アメリカ人のジョーダンは名前を出してもらえず(確かにジャック・マレーという別人の名前がクレジットされている)ギャラももらえなかった。それに同情したドリス未亡人が、ジョーダンに自分の名義で改めて録音する機会を与えた、という経緯らしい。

危険な関係のブルース

私は以前このセッションの日本盤CDを持っていて、そのライナーノーツには確かこんな風に書いてあったのだが(もう売ってしまったので手元に無い)、今Wikipediaを見てみると、セロニアス・モンクもこの映画の音楽を依頼されて録音した、と書いてあって驚いた。どうやら映画の前半では実際モンクの音楽が使われているらしい。あいにく私は映画を見たことがないので確認しようがないのだが、このモンク担当部分の音源が単体でLPなりCDなりになったことはないようである。データによればサム・ジョーンズのベース、アート・テイラーのドラムス、そしてチャーリー・ラウズとバルネ・ウィランのツイン・テナー、というなかなか珍しいメンツらしいので、まとまった形で日の目を見てほしいものだが。ちなみに後半のパーティ・シーンの音楽はアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ(バルネ・ウィラン入り)が担当し、CD化もされている。「危険な関係」サントラというと、普通はこちらのことを指す。

経緯はともかく、音楽としてはジョーダンが後年も愛奏した名曲ばかりで、演奏も充実している。最初にNo Problem、いわゆる「危険な関係のブルース」が3回出てくるが、アレンジがそれぞれ異なり、1曲目がストレートなハードバップ、2曲目が華やかなラテン、3曲目がじっくりしたミディアム・スローと変化があるので飽きさせない。特にフロントの二人は、彼らにとっての代表作と言っても良い名演だと思う。ラウズにしろコーンにしろ、音色のひしゃげ具合というかたそがれ具合が、ジョーダンのほの暗い曲調と実によく合っているのだ。

バディムの映画は名優ジェラール・フィリップの遺作ということもあり、今でもヌーヴェル・ヴァーグの古典として高く評価されているようだが(私は映画の知識がまるでないので全部受け売り)、同時代的にも大ヒットしたと思しく、ジョーダンの曲も当時のヨーロッパではかなり人気があったのではないかと思われる。滞欧中のバド・パウエルが、ライヴでよくジョーダンの曲を弾いていたのもそのせいだろう。


ディスク2の後半は「東と西のジャズ」と題して、ジョーダンとサディク・ハキムというパーカーゆかりの二人のピアニストの演奏をカップリングしたものになっている。両者とも東のニューヨークを拠点として活動していたはずなので意味がよく分からないのだが、まあ万事が適当な当時の弱小マイナー・レーベルではありがちなことと言える。一応、ハキムの音楽には中東の味わいが感じられる、だから東、云々という理由らしいのだが、どう見ても単に名前から判断したとしか思えない。ちなみにハキムはイスラム教に改宗して名前を変えただけで、ミネソタ生まれの生粋のアメリカ人である。

East And West Of Jazz

さて、前半5曲がハキムのセッション、残り5曲がジョーダンのセッションである。ブックレットにはハキムのほうのセッションのミュージシャンについて何の記載もないのだが、ハキムのピアノ、エディ・ライトのギター、ロイド・ブキャナンのベース、カリル・マディのドラムスだと思う。ギターが入っているのが珍しい。これがハキムの初リーダー・セッションのようだ。これは1962年2月13日の録音。

ジョーダンのほうのセッションは、ジョーダンのピアノ、セシル・ペインのバリトン、ジョニー・コールズのトランペット、ウェンデル・マーシャルのベース、そしてWlter Boddenのドラムス、と書いてあるのだが、これはおそらくウォルター・ボールデンであろう。名前くらいちゃんと書いてやれよ…。こちらは1962年2月22日の録音。

ハキムはパーカーのルームメイトで、1945年11月26日のパーカーのサヴォイ録音、いわゆるKo-Koのセッションで素っ頓狂なピアノを弾いていること以外一般的には全く知名度のないピアニストだと思うが、作曲に抜群の才能があった人だと思う。ピアノはどちらかというとかなり下手な部類だと思うのだが(独学で学んだようだ)、メロディ・ラインはモンクほどエキセントリックではないものの、特にハーモニーのセンスには非常に特異なものがある。私は超絶技巧やある一定の枠内での完成も高く評価するが、個人的にはこういう人こそ聞く価値があると考えている。

後半のジョーダンのセッションは、まあいつも通りというか、メンツこそ微妙に違うもののセシル・ペインは入っているし、パーカーのDexterityなども演奏しているので、ディスク1の続きという感もある。快調なハードバップである。数曲がジョーダンとジョーン・モスカテル(Joan Moskatel)という人との共作になっているのが目を引く。

ジョーダンはパーカー・クインテットのピアニストを務めたこともあってか、ドリス未亡人に気に入られていたと思しく、Charlie Parker Recordsでも当初の新録では半ばハウス・ピアニストのように起用されているのだが、ジョーダンにとって1962年は厄年だったようで、奥さんのシーラ・ジョーダンとは離婚、ミュージシャンも一時引退し10年近くタクシー運転手として糊口をしのぐことになる。Charlie Parker Recordsでも共演を重ねたセシル・ペインとはブルックリンで共に育った幼なじみで仲が良かったようで、1973年に録音した復帰作も、ペインと組んだBrooklyn Brothersだった。でもペインは、がんばっている割にどこか影が薄いんだよな…。

このディスク2の後半部分は、私が知る限り単体でCD化されたことはないと思う(Amazon MP3では手に入るが)。特にハキムは録音が少ないので、極めて貴重である。YouTube等で手軽に聞けるというわけでもないので、この1枚だけでも元は取れる。

パーカーの名演。素っ頓狂なイントロやソロを弾いているのがハキムです。

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