Charlie Parker Records: The Complete Collection Vol. 4

Charlie Parker Records: The Complete Collection

謎のレーベルCharlie Parker Recordsの話の続き。ディスク4はアート・ペッパーの名演をフィーチャーしている。

いきなり前回の補足だが、マンデル・ロウが「Satan in High Heels」サントラの仕事についてインタビューに答えていたのを見つけた。


JazzWax(インタビュアーの批評家マーク・マイヤーズが運営するブログの名前、以下JW): 「Stan in High Heels」は映画のサウンドトラックとして傑出したものの一つです。どうしてこの仕事に関わることになったんですか?

マンデル・ロウ(以下ML):あれは私が初めて書いた映画音楽なんだ。1962年、プロデューサーのレナード・バートンが電話してきてね、こんなポルノ映画を撮ったと。今の水準で言えばポルノというほどのものではないと思うけどね。で、彼は私がNBCオーケストラ向けに書いた音楽を聴いたことがあって、この映画は私向きだと思ったらしいんだ。

それで私はニューヨークで連中と会い、ビジネス面の詳細を詰めた。それからレコーディングの手配をしてね。映画編集者がフィルムをまとめ始めると、私を呼んで途中のフィルムを見せてくれた。そうやってどういう音楽が必要なのか理解したんだよ。

JW:映画を見てどう思いましたか?

ML:率直に言って、何を思ったらいいのか分からなかったよ。かなりしょうもない映画だったからね。でも私は映画音楽を書いてみたかったし、これは音楽的に新しいことをやってみるにはちょうど良い舞台だった。映画の内容が把握できてくると、どんな音楽を書けばいいのか焦点が合ってくるんだ。基本ジャズっぽい曲をやることにしてね。私の書いたアレンジは映画に完璧にフィットしたよ。

JW:レコーディングにはすごい才能を集めましたよね。

ML:私が見つけられる最高の連中を揃えたよ。ジョー・ニューマン、ドク・セヴェリンセン、クラーク・テリー、アービー・グリーン、アル・コーンといった連中だ。オール・スター・グループだったんだ。連中だって仕事して家賃を払わなきゃいけなかったしね!


さて、ディスク4にはアート・ペッパーがらみのセッション2つが収録されている。といってもCharlie Parker Recordsが自分で録音したものではなく、ロバート・シャーマンが運営していた西海岸のレーベルTampa Recordsからの音源買い取りだ。いわゆる「タンパのペッパー」というやつである。

前半はマーティ・ペイチとの共演で、Charlie Parker Recordsからは「Chile Pepper」としてジャケットを変えリリースされたが、一般的には「Marty Paich Quartet featuring Art Pepper」として知られている。1956年8月の録音。おそらくペッパーのキャリアを通じての最高作だろう。パーカーと同じ楽器にもかかわらず、ペッパーほどパーカーの物まねをせずに素晴らしい音楽を生み出した人ははいないと思う。幽玄の美というとおかしいかもしれないが、どことなく日本的な儚さすら感じさせる名演である。昔は希少盤だったらしいが、今では単体でもCD化されているし入手は容易だ。

ちなみに今回調べてみて初めて知ったのだが、このセッションではArt’s Opusという曲も録音されているらしい。シャーマンが後に設立したInterludeレーベルから出た「Like Wow-Jazz 1960」というLPに収録されているというのだが、私が聞く限りでは後述のThe Art Pepper Quartetで演奏されているものと同じテイクのように聞こえる。流用したのか、それとも別の未発表録音が存在するのだろうか。

後半は「Pepper Manne」と称してペッパーとシェリー・マンの双頭リーダー名義になっている。これも実は原盤はTampa。最初の4曲はこれまたタンパのペッパーの傑作として知られている「The Art Pepper Quartet」に収録されているもの。「ベサメ・ムーチョ」の決定的名演が入っているあれです。

残りの6曲はやはりTampa盤のMike Pacheco「Bongo Session」から。録音日時は不明だがおそらく1955年より以前(オリジナルがリリースされたのが55年なので)。例によってこちらのセッションのメンツがライナーノートには書かれていないのだが、ロバート・ギルのピアノ、トニー・リッツィのギター、フリオ・アヤラとトニー・リヴェスがベース、そしてシェリー・マンとフランク・ゲレロのダブル・ドラムス、マイク・パチェコのボンゴ、カルロス・ヴィダルのコンガである。打楽器部隊をフィーチャーした一作でなかなか楽しい(が若干やかましい)。パチェコはスタン・ケントン・オーケストラでペッパーと同僚だったが、実はこの録音にペッパーは入っていない。

なお、6曲目(このCDでは15曲目)はSometimes I’m Happyとなっているのだが、たぶん違う曲じゃないかな…。その次のFascinationというのはFascinating Ladyが正しい曲名のようだ。

なぜこれらのTampa音源がCharlie Parker Recordsから出たのか細かい経緯は分からないが、Tampaは西海岸が拠点の弱小レーベルなので、東海岸での販路を求めていたということなのかもしれない。いずれにせよ、これらだけで十分ボックスセット代のお釣りが来るような名演である。音質も悪くない。

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