Big Band Record / Ray Anderson
去る1月10日に亡くなったジョルジュ・グルンツは、テテ・モントリウと並び、60年代ヨーロッパが輩出した中では一頭地抜けて優れたジャズ・ピアニストだったと思う。当時のヨーロッパのピアニストは、テクニックこそ優れているものの根本的にリズム感というかノリの悪い人が多く、それをどうごまかすかで四苦八苦しているようなところがなきにしもあらずだったのだが、さすがにグルンツくらいになるとそうした心配はなく、本場アメリカの一流どころとも互角に渡り合えていた。
ローランド・カークとか、デクスター・ゴードンとか、あるいはフィル・ウッズとか、アメリカから流れてきた強者連中がヨーロッパ人のピアノ・プレイヤーを探すとなると、結局ファースト・コールはテテかグルンツ、あるいはゴードン・ベックあたりだったわけで、それがプロの目から見た冷徹な評価というやつなのだろう。当時のグルンツの狂気全開の凄いピアノが聞けるのがフィル・ウッズ&ヨーロピアン・ジャズ・マシーンのアライヴ・アンド・ウェル・イン・パリスだが、個人的には最近ゆえあってローランド・カークのバックを務めたときの録音(大方ブートレグだが)をまとめて聞きなおしたことがあって、やっぱすげえなグルンツ、と思ったばかりである。
その後グルンツは1972年から「コンサート・ジャズ・バンド」と銘打ったリハーサル・ビッグ・バンドを率い、世界を股にかけた活躍を始めるわけだが、これはその名の通りコンサート・ジャズ・バンドの常連でもあったトロンボーンの鬼才レイ・アンダーソンをメインに据え、アンダーソンが書いた曲をグルンツがアレンジしてコンサート・ジャズ・バンドで演奏するという企画。1994年1月11日から14日というから19年前のちょうど今ごろ録音されたものだ。アンダーソンの曲はどれも一筋縄ではいかないヘンテコなものばかりで、それをグルンツが腕によりをかけてさらにヘンテコにしているわけだが、アンダーソンの体を張った熱演が頭でっかちであざとい感じをいくぶん緩和しているようにも思う。ティム・バーンやエラリー・エスケリン、ドリュー・グレスといった現在の大物たちの若いころの演奏が聞けるという点でも興味深い。マーク・フェルドマンのヴァイオリンが結構効いている。
これも含め、グルンツのコンサート・ジャズ・バンドが残したのは力作ばかりなのだけれど、どこか物足りないというか、少なくとも私個人としては、心から満足が行くというものはなかったような気がする。例えばFirst Prizeはよく出来たアルバムだし、Blues N Dues Et Ceteraもまあ、ラップやスクラッチの導入など変に若作りをしようとして思いっきり滑っている部分もあるとはいえ、全体としては悪い出来ではなかった。それでもなお、ということだ。方向性としてはジョージ・ラッセルやカーラ・ブレイ、あるいはそれこそマリア・シュナイダーのビッグバンドと似通った面があったと思うのだが、他と比べたときのグルンツならではの魅力というか、聞き手を否応なしに惹きつける色気には今ひとつ欠けていたうらみがある。それがどうしてなのか、私にはよくわからない。結局は作曲能力の差、ということになるのかもしれない。
いずれにせよ、これは結局のところ突き詰めれば私の好みに過ぎないので、例えば次に挙げるようなこのコンサート・ジャズ・バンドのライヴ映像(1時間半もある)を見て、ご自分で評価してみてほしい。
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