Our Kinda Strauss / the Kenny Clarke - Francy Boland Big Band

Our Kinda Strauss

長らく廃盤だったCBBBことケニー・クラーク=フランシー・ボラン・ビッグバンドの諸作をがんがんCDで再発してくれる奇特な会社があって、それがRearwardというレーベルである。私もよく知らないのだが、どうもイタリア・ミラノに拠点を置きクラブ・ジャズを主に手がけるSchemaレーベルというのがあり、これのリイシュー専門サブレーベルがRearward、ということらしい。CDには、「REARWARD is a research division of Schema Records」と書いてある。

最近はストレート・リイシューというか、昔出ていたLPをそのままの内容でCD化することが多いようだが、以前は様々な録音を寄せ集めて1枚のCDにするということをよくやっていた。これはそうしたコンピものの一枚。紙ケース入りで、中にはCDを収めたデジパックと写真満載の凝ったブックレットが入っている。なかなか手が込んでいるのである。

寄せ集めの上、同一セッションなのに未収録の曲があったり曲順が連続していなかったりするのでディスコグラフィー的にはややこしいのだが、とりあえず全16曲のうち1曲目から5曲目、7曲目、14曲目から16曲目の9曲が1966年2月28日の録音。この日は実は全部で10曲録音されたのだが、なぜか「Claudia」だけこのCDには入っていない。これらは元々CBBBのテナー・サックス奏者カール・ドレヴォの名義で雑誌の付録として発表された音源で、最近になってSwing, Waltz, Swingとして全曲再発された。ドレヴォがウォーミング・アップでワルツ曲を吹いていたのを聞いたクラークが、「俺たちっぽくシュトラウス(Our Kinda Strauss)をやろうよ」と言い出したのが始まりだそうで、それがCDのタイトルになっている。

残りの曲は別にワルツばかりというわけでもなく、11曲目から13曲目は1967年9月19日の録音。この3曲は元々未発表で、このCDでしか聞くことができない。8曲目と10曲目は1967年11月13日の録音。この2曲もやはりお蔵入り音源で、このCDでしか聞くことができない。そして6曲目と9曲目は1972年1月14日の録音。この2曲も未発表音源で、実はこれらがCBBB最後のスタジオ録音なのだった。もちろんこのCDでしか聞くことはできない。

というわけで、「Swing, Waltz, Swing」マイナス1曲プラスアルファ、三拍子もので統一したというわけでもなく曲順は割と適当、しかしこのCDでしか聞けない貴重音源多数、というややこしい取り合わせがこのCDになる。大半を占める「Swing, Waltz, Swing」由来の曲の多くは、原題やCDの「Our Kinda Strauss」というタイトルが示すように、ワルツ王として有名なヨハン・シュトラウス2世らのワルツ曲をジャズ化したもの。1曲目がヨハン・シュトラウス2世の作品410「春の声」(Frühlingsstimmen)、3曲目が作品437「皇帝円舞曲」(Kaiserwalzer)、4曲目は同姓だがヨハン一族とは血縁関係の無いリヒャルト・シュトラウスの作品59「薔薇の騎士」(Rosenkavalier)、15曲目はオペレッタで有名なフランツ・レハールの「この世は美しい」(Schön ist die Welt)というわけで、私のようにウィンナ・ワルツ等に疎いものでもメロディを聴けばああアレねというくらい有名な曲ばかりである。クラシックのジャズ化というのは大方うまくいかないというかキワモノになってしまうことが多いのだが、実のところボランももてあましたらしく、クラシックものに関してはユーゴスラビア出身のピアニスト兼アレンジャー、ボラ・ロコヴィチがアレンジを手がけている。ロコヴィチはクラシックからは単にメロディを借りるだけという割り切りをしたようで、あとは徹頭徹尾ジャズとして扱っているので特に違和感は無い。妙なスキャットから笑ってしまうくらいゴージャスな展開に突入する1曲目などは、「オースティン・パワーズ」のサントラに入っていてもおかしくないような感じではありますが…。個人的には2曲目、ガーシュインの知られざる名曲By Straussの、洒落ているとしか言いようがない軽快なアレンジが気に入っている。こちらはボランの仕事らしい。

残りの未発表曲群は、当時CBBBが持っていたラジオ番組用に録音していたものらしい。特に1972年の2曲に関しては、ボランが妙な音色のオルガンを弾いていたり、かなり実験的というかスペイシーな音作りになっていて、生煮え感はあるもののなかなかおもしろい。直後に解散してしまうCBBBだが、もう少し続いていたらどんな作品を残していたのかなという、果たされなかった可能性を垣間見る上でも興味深い音源だ。他にはジョニー・グリフィンの名演で知られるNight LadyのCBBBバージョンが聞けるのも興味を惹くと思う。

ガーシュインにこんな曲があったんですねえ(調べてみたらエラ・フィッツジェラルドも歌っていた)

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