藤森流急戦矢倉 / 藤森哲也
今となってはゲームはほとんどやらなくなってしまったが、将棋は相変わらずよく指している。以前も書いた通り元々ヘボ振り飛車党だったのですが、最近はヘボ居飛車党に宗旨替えしまして、まあ相変わらずヘボであることには違いがない。
とは言っても先手番だと角換わりとかやられたときにどうしたらいいのかよく分からなくておろおろするので、結局飛車を振ってしまうことが多いのだが、後手番で相手が矢倉模様のときは米長流急戦矢倉(らしきもの)を採用することが多い。まあ相手が弱いということもあるんだが、勝率は普段の私の体たらくを思えば相当いい感じである。なにより指してて楽しいんですよ急戦矢倉。うまくはまれば相手に何もさせずに袋だたきにできるので気分が良いことこの上ない。まあ相手のほうが強いと、大体5筋あたりから反撃されてこっちがぼこぼこにされるわけだが…。
急戦矢倉はプロ的には半分終わった戦法なのかもしれないが、近年は新手や良質の解説書がいくつも出ていて、ちょっとしたルネッサンスが来ているような気もする。私は以前取り上げた及川拓馬の本で覚えたのだが、最近若手棋士の藤森哲也が出したこの本もなかなか良かった。あまり藤森って印象がないというかワンオブゼムという感じだったのだが、皆が終わったと思っていたものに新たな息吹を吹き込むというのは、なかなか見所があるではないか(上から目線)。文章もそんなに達意というわけではなく、おそらく本文には誰か手を入れているんじゃないかとは思うが、いずれにせよ初々しい感じが好ましい。
藤森本が取り上げているのはいわゆる米長流の本格型というか、銀を二枚とも中央へ送り出すタイプのものだが、第3章まで従来の定跡を辿った上で、米長流の天敵とされた▲3七銀・1五角型への対策を第4章で詳述している。基本的なアイディアは及川本のと同じで、早めに端歩を突き相手の角を1筋から(こちらの限定した場所に)追っ払った上で6筋から開戦するわけだが、角のにらみを活かして歩頭に銀をたたき込む豪快な△3五銀など、いくつか藤森なりの研究手が披露されていて参考になる。先ほども書いた通り、米長流をしばらく指していると、ただでさえ玉が薄いうえ5筋をいじられるといきなり寄ってしまいがちという構造的欠陥が見えてくると思うのだが、それに対しては角を追っ払った上で玉をもう少し囲い、金をあらかじめ4筋へ寄せておくことで5三へのたたきの衝撃を弱め、将来的に詰めろがかかりにくいようにするという細かい工夫が紹介されていて(第5節)、コロンブスの卵というか言われてみれば当たり前なのだが、ちょっと盲点に入っていて感心した。米長流である意味ありがたいのは、よほど相手が変化してこない限り一度レールに乗ると大体本に載っているような展開になるというところだが、それだけにあらかじめ藤森の工夫を勉強して仕込んでおけば、やや優勢くらいには持って行ける可能性も高くなろう。
そういえば昨日のC級2組順位戦で藤森は中堅の村中秀史と対戦していたが、そこで及川本で言うところの田丸流、この本もそうだがより一般的には米長流の速攻型と言うんですかね、あれを採用して腰が重い本格派の村中を叩きつぶしていた。言行一致で頼もしいではないか。田丸流は冷静に考えるとやや後手無理気味だと私は思うのだが(でも指すと大体壮絶なシバき合いになるので楽しい)、最後ひょいと体を躱して先手の桂馬に空を切らせた藤森の新手(?)△4一玉は、なかなか洒落ていてかっこよかったですね。
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