ポール・ブレイのかっこ良すぎる60年代ピアノ・トリオ

ポール・ブレイが1月3日に亡くなった(Ottawa Citizenの記事)。83歳。

ブレイは私が最も好きなピアニストの一人なので、いろいろ言いたいことはあるのだが、とりあえず以前から少し温めていた話を少しずつ書いていこうと思う。

というのは、ブレイに対する一般的な評価というか印象についてである。この人は耽美的、エロティシズムというような形容をされることが多く、よって代表作というと、そうした要素が全面に出た70年代ECM録音のOpen, to Loveあたりが真っ先に挙げられることが多い。

もちろんあれはあれで素晴らしいのだが、ブレイは元をたどればバップ・ピアニストとして出発した人で、チャーリー・パーカーとの共演歴すらある。1958年という時期にいち早くオーネット・コールマンを迎えたカルテットを組んで演奏したのも彼だし、60年代にはフリー・ジャズ勃興のまっただ中にいた。にも関わらず、どんなムーヴメントともいつの間にか距離を取って我が道を行くあたりが、この人の面白いところなのだが。

それはさておき、何が言いたいかというと、耽美だのエロだのというのは、ブレイという音楽家のほんの一面に過ぎないということだ。

特に若いころのブレイの演奏は、強力で鋭角的なタッチと独特の切迫感あふれるリズム感を特徴とする、男性的と言っても良いようなものなのである。にもかかわらず、後年の仕事で見られるような知的な繊細さも濃厚に感じられる。両者が組み合わさって醸し出されるヒリヒリするような切れ味こそが唯一無二のブレイの個性で、そこが私のような者にはたまらないのだ。先に述べた70年代のソロ・ピアノの諸作も素晴らしいし、後年になってさらに柔和になった後の作品もそれはそれで良いのだが、私としてはやはり60年代の、それもピアノ・トリオものを高く評価したい。

どんな演奏の話をしているのかというと、たとえばこんな演奏の話をしているのです。

60年代のブレイの仕事は、ある程度はCD化やMP3化されているものの、あまりまとまった形では再発されていないし、手に入りにくいものも多い。同じ録音が違うタイトルで、あるいは異なる録音が同じタイトルでリリースされたことすらある。レパートリーやメンツがある程度固定されているので、混乱を招きやすいのだとは思うが、残念なことである。というか私も完全に把握しているかどうか自信がないのだが、録音年月日を手がかりに整理すると、おそらく60年代のピアノ・トリオ作は以下の通りである。かっこ内は代表的なアルバム・タイトル。再発のたびにレーベルやタイトルが変わっていることもあるので…。

60年代の、と言ったが、一応65年以降、68年まで、ということにしたい。実際にはこれ以前の、特に1962年から64年にかけてのサヴォイ録音や、63年のゲイリー・ピーコックやポール・モチアンとの録音も重要で、後年とのつながりも深いと言えば深いのだが、管楽器入りの演奏もあるし、レパートリーも1965年以降とは若干異なる。若書きというわけではなく十分魅力的なのだが、音楽自体の性格もちょっと異なるように感じられるのである。また、この時期に関してはジミー・ジフリーやドン・エリス、あるいはソニー・ロリンズといった他のミュージシャンとの関係を抜きに語ることもできない。そこで、初期ブレイの諸作はまた改めて取り上げたい。また、1968年以降はしばらくアネット・ピーコックとのシンセサイザー・ショウの活動がメインとなり、これまたそれまでとは全く性格の異なる音楽なので、これも別途ということで。

ということで、次がいつになるか分かりませんが、「Touching」からちびちびとレビューを書いていくつもりなのである。

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