BABYMETAL, KISS and Rock'n Roll Music Business

METAL RESISTANCE

しばらく体調を崩して寝込んでいた。呼吸器をやられると苦しくて動けなくなるので、やることと言えば寝ながらテレビでYouTubeを見るくらいだった。

最近は日本もそうなりつつあると思うが、海外のテレビ番組は結構YouTubeに動画を載せていて、番組全てではないにしろ、コーナー単位なら高画質で楽しめることが多い。で、先日スティーヴン・コルベアの番組の動画を見ていたら、音作りや演出は若干ハードだけれど基本線は和風アイドルポップスとしか思えない変なグループが突然出てきて度肝を抜かれたのである。それがBABYMETALだった。

BABYMETALに関しては、最近ピーター・バラカンが何か言ったとかで一部で話題になっているようだが、まあBABYMETALが「まがい物ではない」日本のヘヴィメタルの代表だと言われたらそりゃ怒る人もいると思うが(そんなことを主張している奴はいないと思うけど)、J-POPの変わり種としては相当いい線言っていると思うし、実際売れているのだから大したものである。海外でツアーを成功させ、コルベアのような人気テレビ番組に出ているのだから、素直に凄いと思う。

それはそれとして、まがい物呼ばわりにも一理あるというか、正直に白状すれば、そもそも私も最初予備知識無く聞いて、あれがヘヴィメタルだと思わなかった。確かにヘヴィメタの伝統にいろいろ目配せというかリスペクトを払っているとは思うし、ヘヴィメタ「ぽい」のではあるが、やはり換骨奪胎というか、全体としては別物じゃないですかねえ。

そういう意味で、BABYMETALの成功を知ってまず思い出したのはKISSである(敵を大量に作る発言)。KISSもまあ、どうしてもああいうことをやりたかったというよりは、ああいうことをやると売れるからああなったというところがあって、ハードロック・バンドということになっていてハードロックぽいのではあるが実のところ大してハードではないという、そのへんを否定的に見る人もいるだろう。しかし、十数年前に出た創立メンバの一人ジーン・シモンズの自伝はとても面白い。私と同じくKISSそのものにあまり関心がない人にも、ブルージーなコクのある読み物として勧められる。

KISS AND MAKE‐UP―ジーン・シモンズ自伝

アメリカのポピュラー音楽業界で成功するには、基本的には白人、あるいは少なくとも黒人である必要がある(最近ならラティーノでも可かも)。良くも悪くもそれが前提の世界で、英語が出来ず、おまけに片親で大して裕福でもないイスラエルからのユダヤ人移民の子供であるハイム・ヴィッツが成功するにはどうしたらよいか。ヴィッツ改めシモンズが編み出したのが、KISSのコンセプトだった。(地獄とか悪魔とかどうでもよくて、実は人種が分からないように)顔に派手なメイクをし、(たまたま長かったので)派手に舌を出し、見世物として楽しめるよう派手なステージ・アクトを工夫して練り上げる(炎を吹いたらバックファイアで髪が燃えてしまったとか、涙ぐましい努力がそこにはある)。ファンを組織して大事にし、(本国で売れなくなったので)海外展開も積極的に行う。ライセンス商品としてKISS印のコンドームからトイレットペーパー、棺桶まで売る。最近では富裕層相手の生命保険会社までやっているらしい。酒もクスリもやらず親孝行で家族思いの(セックス依存症だけど)シモンズは、ロックスターというよりはどケチど根性なビジネスマンなのだが、そんな奴の自慢話を読んで面白いのかと言われると、これが面白いのである。ここまでしないと売れないんだな、というある種畏敬の念を禁じ得ない。

それと同じ感慨を、BABYMETAL(の仕掛け人)にも感じた。おそらくここまで来るには、シモンズ同様相当涙ぐましい努力があったはずだ。そう思うと、とても悪く言う気にはなれないのである。

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