Ramblin' / Paul Bley

1966年7月1日、イタリア・ローマにおけるスタジオ録音である。翌年フランスのBYG Actuelレーベルから発売された。といってもBYG Actuelが設立されたのは1967年3月なので、ブレイが自主的に録音したテープを持ち込んだのだろう。BYG Actuelは今でこそ伝説の前衛ジャズレーベルだが、当時は散々ギャラを踏み倒したあげく夜逃げしたとかで、後年再発されるときには当時録音したりレーベル仕切りのフェスに出たりした連中と揉めていたが(再発を手がけたCharly Recordsの設立者はようするにBYGのYの人だったので、怒るのも当然ではある)、ブレイも大したお金はもらえていないでしょうね。

このRamblin’は、ブレイの60年代ピアノ・トリオものの中では、個人的に最も気に入っていて、未だに良く聞く一枚である。ドラムスはCloserから引き続きバリー・アルトシュルだが、ベースはスティーヴ・スワローから、後年高級オーディオ屋として名を揚げたマーク・レヴィンソンに交代している。レヴィソンがいつまでベーシストをやっていたのかよく知らないが、オーディオ会社を立ち上げたのが1972年なので、プロとしての活動期間はせいぜい数年といったところだろう。それでもエンジニアの余技どころではない素晴らしいベース・ワークを披露していて、おそらくこのメンツが、ブレイが全キャリアを通じて持ち得た最良のトリオだと思う。しかしレヴィンソンは1946年生まれなので、このときまだ20歳。昔の人は早熟だったんですねえ。

先のCloserではカーラ・ブレイの曲を中心に取り上げていたが、今回は全6曲中アネット・ピーコックの曲が3曲(「Both」「Albert’s Love Theme」「Touching」)、オーネット・コールマン作が1曲(「Ramblin’」)、ポール自作も1曲(「Mazatalon」、また綴りを間違えている)という陣容で、カーラ作は「Ida Lupino」の1曲だけである。映画に疎いのでよく知らなかったのだが、アイダ・ルピノは長く活躍した有名映画女優であると同時に、男社会のハリウッドで女性監督の先駆けにもなった人なんだそうで、この曲が持つ淡々とした中にも濃厚に漂う色気には、ルピノのような独立独歩の強い女性へのカーラの憧れが投影されているのかもしれない。

ただ、個人的に好きなのは何と言ってもタイトル曲で、オーネットによる1960年のオリジナル録音もかっこいいのだが、ここでのブレイの解釈は強烈なスリルに満ちていて最高だと思う。ブレイは1958年にこの曲をオーネットと共演していて思い出深い曲だったのだろうが、完全に自家薬籠中の物としている。放浪(Ramblin’)は戦前ブルーズやフォークでは頻出のテーマで、曲名や芸名に使われることも多いが、オーネットはおそらくそうした黒人音楽の伝統を念頭にこの曲を書いたのだろう。珍しくグロウルしてみたり、デフォルメというかパロディというか、「いわゆる」ブルーズをあえてやっている節もあるのだが、その点、黒人だが案外伝統的なブルーズとは遠いところにいたオーネットと、白人だが黒人音楽をやりたくて、でも普通にはやりたくなかったブレイは、醒めた視線という意味で近いものがあったのかもしれない。

1958年の共演。ブレイに加えオーネット、ドン・チェリー、チャーリー・ヘイデン、ビリー・ヒギンズという、後年のオーネット・カルテット+ブレイという編成でクラブに出たときの記録。フリージャズのあけぼの(の一つ)とされている録音。本当はブレイがリーダーで、ゲストとしてオーネットを入れてあげたようなのだが、オーネットが演奏し始めると客が全くいなくなった(ので出演も打ち切り)という、ある意味笑える伝説的録音である。音質は最低だが、今聴くと良い演奏なんだけどねえ。

1960年の演奏。わずか2年後の録音だが、確信に満ちているというか、オーネット流フリージャズの一つの完成型になっている。

そして1966年のブレイによる解釈。

Ramblin (Spec)

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