ライル・メイズの死

数日前のことだが、ライル・メイズが亡くなったと聞いて驚いた。66歳とのことで、今では若死にの部類だろう。

ジャズ・フュージョンの世界で最も人気のあるユニットの一つ、パット・メセニー・グループの屋台骨を30年近く務め(そのせいか死去の告知もたぶん最初はメセニーのウェブサイトに出た)、グラミー賞を11個も取った人の割に最近あまり噂を聞かないなと思ったら、ここ10年ほどほとんど音楽活動はしていなかったようだ。2016年のインタビューでは音楽は辞めてソフトウェア・マネージャ(?)をやっている云々と語っていたようだが、詳細な死因は公表されていないものの、告知によれば「再発性の疾患」とのことなので、おそらく病気で引退せざるを得なかったのではないかと思う。

私の雑駁な印象では、メイズという人はピアニストとしては個性が無いのが個性みたいなところがあって正直よく分からないところがあるのだが(別に下手だとか悪いと言っているわけではない)、シンセを総動員して色彩豊かな音響を作り上げるサウンド・クリエイターとしてはかなり強烈な個性を持っていた。その意味ではジョー・ザヴィヌルに匹敵する才能だったと考えられる。

メセニー・グループでもそれなりにメイズ色は出ていたが、やはり彼自身の個性がより強く顕れるのはグループ外での活動で、とはいっても大方が思い浮かべるメイズの代表作は、結局のところメセニーとの双頭名義のAs Falls Wichita, So Falls Wichita Fallsではないかと思う。

As Falls Wichita So Falls Wichita Falls

何か特定の風景や事象を具体的に表現しているわけではないのだが(曲のタイトルは地名だったりビル・エヴァンスの命日だったりするけれど)、それでもなおイメージ喚起力の強い音楽で、逆にアメリカの片田舎をてくてく歩いていると、このアルバムの音響の一部がふと頭をよぎることがある。ピアニストとしても、そこかしこで印象的なソロを取っている。

Geffenレーベルに残した自己名義の作品の中では、豪華なメンバを揃えた Street Dreams なども悪くなかったが、マーク・ジョンソン、ジャック・デジョネットという重量級のサイドメンを従えたピアノ・トリオで存分に弾きまくったFictionaryが一番だろうか。

Fictionary

ここでもキース・ジャレットっぽかったり、チック・コリア風だったり、あるいはハービー・ハンコック的な一瞬もあったりして、さらにはビル・エヴァンスやポール・ブレイの影もよぎるという具合にいかにもつかみどころがないのだが、では彼ら先人たちの単なるつぎはぎコピーなのかというとそうでもなくて、全体としてはメイズの音楽としか言いようがない霞んだ空気をまとっている。ジャズ・ピアノの伝統とは多分に切り離されているのだが、いわば「かつてジャズであったもの」を構成要素として駆使し、自分なりの表現に昇華させていくという点で、同じように伝統から遠くなった最近の若手「ジャズ」ミュージシャンたちのあり方を先取りしていたのかもしれない。

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