セロニアス・モンクとジョルジョ・デ・キリコ

今年2024年は大規模なジョルジョ・デ・キリコ展が東京(4/27~8/29)と神戸(9/14~12/8)で開催されるそうだが、どうも「予言者」(The Seer)が来るらしい。

「予言者」というのは1915年頃にデ・キリコが描いた「形而上絵画」のひとつで、ニューヨーク近代美術館に収蔵されている。NYCへ行くたび時間があればMoMAを訪ねているのだが(お土産を買いに)、何せ収蔵作品は膨大なので全て常設展示なわけがなく、今まで実物を見たことはない。

と知った風に書いたものの、実のところ美術には大変疎いのだが、この絵はジャズ方面では妙に有名ですよね。というのもセロニアス・モンクの1958年のライヴ盤Misteriosoのジャケットに使われているからだ。これは別にモンクがデ・キリコのファンだったとかそういうことではなく、当時あまり人気が無かった(当然レコードの売れ行きも宜しくない)モンクを、いかにもデ・キリコの絵とか好きそうな亜インテリみたいな層へ売り込もうとしたプロデューサー、オリン・キープニューズの意図的な戦略だったらしく、わたくしなどは今ごろになってそれに思いっきり引っかかっているわけですが、とはいえそういう背景は除いても、モンクの音楽の神秘的な性格にマッチした雰囲気のある絵だと思う。絵自体もさることながら、タイポグラフィの妙も特筆されるべきだろう。しかし、デ・キリコ(1978年まで存命だった)は、自分の絵がジャズ・レコードのジャケに使われたことを知っていたんですかねえ。

ジャズ・クラブ「ファイヴ・スポット」でのモンクのライヴというと、どうしてもジョン・コルトレーン入りバンドによる1957年の演奏が有名で伝説的なわけだが(契約の問題でちゃんとしたライヴ録音が出来なかった。まあ今はものすごく音質が良い同時期のカーネギーホールのコンサートが発掘されたけど)、1958年にフロントを務めたジョニー・グリフィンも決して負けていない。あれでモンクは実は伴奏者としての意識が強かった人で(そうスティーヴ・レイシーにも語っている)、ようするにフロントマンにはピアノのことなど斟酌せず好きに吹きまくってもらいたいのである。それを前提に彼のピアノが独自の味付けをするという方法論なわけだ。なのでジェリー・マリガンとかシェリー・マンとか、一流の力量があってもモンクを立てて自分から合わせようとする善人とは今ひとつ相性が悪いし、俺のバックでピアノを弾くなと(たぶんあまり悪気は無しに)言ってしまったマイルス・デイヴィスとは喧嘩になるのであった。その点グリフィンは基本的に我が道を行くというか、放っといても一人で延々と吹きまくっている人なので、まさに適任である。

個人的にはMisteriosoも嫌いではないが、どちらかと言えば同日録音の続編Thelonious In Actionのほうを良く聞いている。好みの曲が多いというのあるし、グリフィンの演奏も心なしかこなれているような気がする。故・古今亭志ん朝もインタビューでこのアルバムに触れ、モンクの伴奏ではロイ・ヘインズのタイコが一番しっくり来ると語っていたが、確かにヘインズ大活躍ですね。最近の再発盤では、遊びに来たアート・ブレイキーが飛び入りした演奏もおまけで入っている。未だに誰も正確な曲名が分からない(どうやら Meet Me Tonight In Dreamland じゃないらしい) Unidentified Piano Solo が入っているのもこちら。

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