ジョニー・スミスの未発表ライヴが2枚も出た
これらも2024年の発掘音源。
ギタリストのジョニー・スミスというと、名前も平凡だし、今となってはあまり知っている人はいないのではないかと思う。少なくとも私は全くノーマークだった。
といいつつスミスの作品を全く聞いたことがなかったかというとそうでもなくて、1952年のヴァーモントの月という作品は子供のころCDが図書館にあったのを覚えている。しかしこれ、室内楽風ジャズというのかクラシックっぽくて、まあ悪く言えばチンタラ弾いているという感じではあったのである。結局は、スミス云々より絶頂期のスタン・ゲッツが入っているから有名なのだと思いこんでいた。
こんな感じですよ。
ジョニー・スミスはアラバマ生まれでギターは独学。それでも譜面には強かったようで、劇伴やスタジオ・ミュージシャンとしても引っ張りだこだったようだ。そのあたりが「ヴァーモントの月」のようなおっとりした演奏にも生かされたのだろうが、一方でこの人は、なぜかザ・ベンチャーズで有名な「急がば廻れ」(Walk, Don’t Run)の作曲者でもあるらしい。まああれ、正体は「朝日のようにさわやかに」ですが…。
そのまま1950年代のニューヨークで活動していればもっと名が揚がったのだろうが、間もなく奥さんがお産で亡くなってしまい、ニューヨークは娘を育てる場所ではないと見切りを付けたスミスはキャリアを捨ててコロラド州に引っ込んだ。楽器店を営み、おそらくは「急がば廻れ」他の印税もあって、2013年に90歳で亡くなるまで悠々自適の人生を送ったようだ。
ただ、全く演奏から手を引いたのかというとそうでもなく、1970年ころまではたまに録音もしていて、地元でライヴもやっていたらしい。そのいくつかは彼のバンドのベーシスト、ディック・パターソンが録音していたようで、その音源が今年に入ってBandcampで2枚もリリースされた。今はSpotifyなどの配信サービスでも聞ける。
1枚目のThe Last Night at Shaner’sは、なんだか昔のドラキュラ映画みたいなジャケで不安になるが中身はストレート・アヘッドなジャズで、1971年、デンバーのクラブでの演奏。2枚目のJazz in the Springsは1966年、スミスが住んでいたコロラド・スプリングスでの演奏のようだ。ちょっと音が割れているところもあるが、全体としては素人が録っていたものの割に音質は悪くない。
どちらも、チンタラおっとりどころかバリバリと弾きまくっていて、私のようにスミスに一定のイメージを持っていた人は驚かされるに違いない。テクニックは一級だし、なによりイマジネーションに富んだ起伏ある演奏が素晴らしい。確かにジョニー・スミスは史上屈指のジャズ・ギタリストだったのだ、というのを有無を言わさず証明する録音だと思う。
発掘音源はどんなものでも歓迎だが、このようにアーティストのイメージそのものが変わってしまうのは珍しい。パターソン秘蔵のテープはまだあるようなので、さらに出るといいんですけどね。あと、スミスの正規録音は大概のものはCD化されているようだが、1968年のラスト作、Phase IIだけは一度もなっていないようなので、そのうちなるといいなあ。
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