Camera In A Bag / Ray Drummond

ジャズ・ベーシストのレイ・ドラモンドが亡くなった。享年78。

ドラモンドは1946年生まれ、1970年代に活動を始めたようだが、引っ張りだこになるのは1980年代以降で、少なくとも数百のレコーディングに参加している。もちろんライヴやツアーへの参加はそれ以上だろう。あいにく生で見たことはないのだが、私がリアルタイムで聞いていた1990年代のジャズの新譜の相当数でベースを弾いていたので、個人的には非常に印象深い。ブルドッグとあだ名されたふてぶてしい風貌(とか言うと怒られるかもしれないけど)はともかく、ぶんぶんうなる太い音、演奏をがっちり支える安定したベースラインで、主流派ジャズのベーシストの鑑とでも言えましょうか。他人の邪魔をせず、全体をコントロールし、かつ自分もちゃっかり目立つというベースは、実のところ頭が良くないとできない仕事だと思うが、当人、いつの間にかスタンフォードでMBAを取っていて、やはりクレバーな人だったのですね。ちなみに歳の離れた弟は弁護士になり、Googleの親会社Alphabetの重役にまで上り詰めたようだ(そしてセクハラで辞任)。

基本的にはサイドマンだったので、リーダー作はそれほど多くないのだが、そんな中、個人的に愛着があるのはこの1989年のCamera In A Bagというアルバムだ。タイトル通りバッグに入ったカメラとご本人というジャケット写真はどういう意味なのかよく分かりませんが、デイヴィッド・ファットヘッド・ニューマン、スティーヴ・ネルソン、ケニー・バロン、マーヴィン・スミッティ・スミスと、それまでに付き合いがあった人々を迎えて、これぞ保守本流という感じのハードバップ・ジャズを展開している。ファットヘッドのフルートとネルソンのヴァイブというちょっと変わったフロントの組み合わせが音色に変化を与えていて、今も昔もリーダー作では空回りすることが多いケニー・バロンも脇に回って冴えているし、スミッティ・スミスのドラムスも快調だ。時代を画する大傑作というわけではないが、聞いていると楽しいというか、小傑作とでも言うんでしょうか。この時期のCriss Crossレーベルはこういう温かみのあるジャズをがんがん出していて良かったのだが、その後はなんか冷たい演奏が増えてしまったような気がするなあ。ちなみに4曲目、ボビー・ハッチャーソン作のWeird Bluesということになっているが、Anton’s Bailじゃないのかな…。

音源はSpotifyには無いようだが、Apple Musicにはあります。

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