Tradition In Transition / Chico Freeman

ジャック・デジョネットがピアノを弾いている作品、手元で他にあるかなと思ったが、これの1曲目はデジョネットがピアノである。セロニアス・モンクの曲なので、モンクをちょっと物真似するように弾いていておもしろい。物真似がなかなか堂に入っているというか、器用なものだ。ドラムスはビリー・ハートが叩いている。

むかし日本盤が出たときのタイトルは『輪廻学』だったらしいが、原題はTradition In Transitionだから、輪廻とは関係なく「変化しつつある伝統」みたいなことだろう。実際、1982年の作品ということで、70年代フュージョンの時代が終わり、ウィントン・マルサリスあたりを筆頭に伝統的なジャズへの回帰が始まったころに当たる。当時売り出し中だったチコ・フリーマンとウォレス・ルーニーがフロントで、どちらもなかなか若々しいソロを取っている。チコ・フリーマンは、なぜかベーシストのセシル・マクビーと共演しているときだけとても冴えているのだが、どうしてなんだろう。

他の曲ではハートとデジョネットがドラムスの座を分け合っているが、謎なのは1曲目以外でピアノを弾いているクライド・クライナー(Clyde Criner)という人で、正直に言えば全く知らなかった。調べてみると1952年生まれというから当時30歳、彼もまた売り出し中の若手中堅で、ニューイングランド音楽院で修士を取った後、マサチューセッツ大学で教育学の博士号まで取った人らしい(経歴がビリー・テイラーっぽい)。アーチー・シェップからサンタナまでサポートをこなすピアニスト、作曲家、教育者として将来を嘱望されていたが、1991年に39歳の若さでエイズで急死してしまったようだ。ピアニストとしてはあまり個性的というわけではないが、音楽院仕込みらしくなかなかテクニックはあるし、何と言いますか引き出しがジャズだけではない器用な裏方感がこちらも早逝してしまったドン・グロルニックっぽい。長生きすればプロデューサー業なんかも巧みにこなしたのではないかと思う。

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