A Christmas Gift For You From Phil Spector

クリスマス・アルバムはそれこそ星の数ほどあるが、個人的にはクリスマスにはこれを聞くことが多い。スタイルとしてはオールディーズというか今となっては古くさいものだが、驚くほどの熱量が込められている。陳腐で悪趣味で残忍ですらある商業主義と純粋な宗教心や愛や喜びの両立という、クリスマスというイベントの独特な性格をここまで良く表しているものは他にない。

このアルバムはプロデューサーのフィル・スペクターを抜きに考えることはできない。アルバムを制作した1963年ごろはスペクターの絶頂期で何をやっても大ヒット、当たるべからざる勢いだった。ステレオ技術はすでにあったのにあえてモノラルにこだわり、力強いヴォーカルと豪華なオーケストラが一発録りで渾然一体となったサウンドを音圧高めにぶちかますというスペクター印の「ウォール・オブ・サウンド」は、当時の大衆、特に若者やマイノリティが持ち得た安いオーディオやカーラジオで聞いても十分迫力のある音を作る方法論として見事にはまっていた。

スペクターは音楽的才能は抜群だったと思うが、人間的には相当問題があった人で、最後は殺人で有罪となり獄中で(新型コロナ禍による)死を迎えた。このアルバムの制作時も、大半は20歳前後でティーンエイジャーも含まれていたアーティストを朝から晩まで拘束してこきつかい、「児童虐待」と評されていたそうである。そうしたスペクターの偏執的で自己中心的な性格が、彼の音楽の異様な完成度を支えていたのもまた、否定できない事実なのだろう。クソ野郎が作ったからといって成果物を否定することはないが、作ったのがクソ野郎だったということは記憶しておかなければならないんでしょうね。

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