ビート・ジェネレーション / 宮間利之とニューハード

私の印象ではひとくちにジャズが好きと言っても小編成派とビッグバンド派があって、両者はあまりかぶっていないのである。前者は演奏者の個人芸というかソロにおける即興演奏の素晴らしさに関心があり、後者は一糸乱れぬアンサンブルや編曲の妙に魅力を感じている。なので、ソロはぶち切れていても調律はいい加減でテーマの合奏もぐだぐだみたいな演奏は後者には理解しがたいし、楽器はうまくて音はブリリアントだが没個性で即興がまるで出来ない人とかをありがたがるのは前者にとってはようわからんということになる。ただの音楽ファン vs. 吹奏楽部上がりみたいな出自の違いもあるのかもしれない。

私はどちらかというと前者で、ビッグバンド・ジャズも別に嫌いではないが、個人の個性を全体のアンサンブルの精度とかテクニックよりも重視する傾向は否めない。なので普段はケニー・クラーク=フランシー・ボラン・ビッグバンドとか、ああいうあまりビッグバンド的ではないビッグバンドばかり聴いているのだが、ふと日本のビッグバンドを聞いてみるかと思い立って聞いてみたら、これなんかはなかなか良かった。

宮間利之ニューハードは戦後間もない1950年に「ジャイブ・エーセス」として結成、1958年に「ニューハード」に改称し、2016年に創立者の宮間利之が没した今も続く国産ビッグバンドの雄で、紹介文を見ると子羊の群から「ニューハード」と名付けたとあるが、これはおそらくウディ・ハーマン・オーケストラ(The Herdとして知られた)にあやかったんですな。なので元々ハーマンのようにエリントンやベイシーの世代よりは新しいモダン・サウンドを志向していたと思しく、1971年には来日したチャールズ・ミンガスと共演し、1975年にはニューポート・ジャズ・フェスにも出演するなど国際的な評価を得た。

このアルバムは1994年、当時「日本ジャズ維新」として売り出されていた日本人若手ジャズメンを動員して録音されたもので、活動は続けていたが1982年を最後に録音していなかったニューハードにとっても12年ぶりの新作だったようだ。ビート・ジェネレーションというタイトル通り1950年代から60年代にかけてのモダン・ジャズの曲を中心に取り上げていて(タイトル曲はケニー・ドーハム「蓮の花」の本歌取りですね)、凝った編曲やアンサンブルはビッグバンドらしくかちっとした作りな一方、個々のソロもなかなか気合が入っていて理想的である。出た当時はあまり話題にならなかったんじゃないかという気がするが、こういうのが音楽配信で気軽に聞けるようになったのは良いですね。

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