Touching / Paul Bley
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。
去る2016年は多くのミュージシャンが亡くなったが、個人的に一番悲しかったのは去年の正月に亡くなったポール・ブレイだ。
50年以上に及ぶキャリアにおいて数々の優れた作品を残しているブレイだが、以前も書いた通り、私が最も魅力を感じるのは1960年代の中盤に録音したピアノ・トリオものである。
この「Touching」は1965年11月5日、デンマーク・コペンハーゲンでの録音で、ブレイの一連のトリオものの嚆矢である。前年のBarrageではサン・ラー・アーケストラのリード・アルト、マーシャル・アレンらを迎えて正調フリージャズをやり倒していたが、ここからはしばらくピアノ・トリオでの活動が続く。フリーではあるがすっきりした見通しの良い演奏で、単に管楽器がいないということもあるが、音楽自体もより整理されて明快なものになりつつあったような気がする。
メンツの面では、ドラマーが重厚なミルフォード・グレイヴスから、軽快で弾むようなリズム感を持つバリー・アルトシュルに代わったことが大きい。しかし今気づいたが、アルトシュルは1943年生まれだから、当時まだ22歳だったんですね。ベースは加古隆とも共演したことがある名手ケント・カーターだが、このトリオで音楽的な主導権を握っているのはアルトシュルだろう。70年代初頭にチック・コリアがフリーっぽいことをやろうとしたことがあったが、アルトシュルを呼んだことも含め、ブレイのこのあたりの演奏を参考にしていたのではないかと思う。
ちなみにマイナー・レーベルの再発盤にはありがちなことだが、Touchingにもいくつかのバージョン(?)が存在している。
元々は1965年、オランダのFontanaレーベルのNew Jazz Seriesの一枚として
- Start
- Touching
- Pablo
- Both
- Mazatalan
- Cartoon
という6曲入り、30分弱のアルバムとしてリリースされたようだ。しかし後にBlack LionレーベルからCD化された際には、
- Start
- Cartoon
- Touching
- Mazatalan
- Both
- Pablo
- Closer
- Blood
という8曲入りになっている。曲順も違うし、曲数も違う。8曲目は1966年のLive in Haarlemに収録されていた18分強のライヴ演奏(ベースはマーク・レヴィンソン)だが、7曲目のCloserの出所がよく分からない。おそらくTouchingのセッションの残りテイクだとは思うのだが…。
ジャケットもややこしいことになっていて、基本的にFontana Jazz Seriesはマルテ・レーリンクという画家が描いた非常に特徴的なミュージシャンたちの肖像画をあしらっているのだが、実はブレイに関しては違うアルバムで同じ肖像画(とデザイン)を使い回しているのである。このTouchingと1966年のBloodがそれで、タイトルだけ違って絵柄は同じというわけだ。なので、しっかりタイトルを見ないと間違えて買うということもありうる。
ちなみに先ほど出てきたライヴ盤のLive In HaarlemはBloodというタイトルで出たこともあり(ジャケットにもそう大書されているし)、それは当然1966年のスタジオ録音盤Bloodとは別物なわけで、なんだかもう訳が分かりません。
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