Closer / Paul Bley

Closer

前作Touchingから約1ヶ月後の1965年12月5日の録音。フリージャズというか前衛音楽の名門ESP-Diskから出たこともあり、この時期のポール・ブレイの作品の中では最もよく知られているものではないかと思う。今でこそ有名だが当時のESPは社主バーナード・ストールマンの「でも、やるんだよ」精神にのみ支えられた万年金欠マイナー・レーベルだったわけで、Touching同様収録時間が短い(30分ない)のは、たぶん満足にスタジオ代(おそらくミュージシャンへのギャラも)が払えなかったからだろう。

Touchingではポール・ブレイの曲が2曲(「Pablo」「Mazatalan」)、アネット・ピーコックの曲が3曲(「Touching]「Both」「Cartoon」)演奏されていて、カーラ・ブレイの曲は1曲のみ(「Start」)だったが、このCloserでは全10曲中7曲がカーラの曲(「Ida Lupino」「Start」「Closer」「Sideways in Mexico」「Batterie」「And Now the Queen」「Violin」)である。残りはポールの「Figfoot」(たぶんPigfootの誤記)、アーネットの「Cartoon」、そしてオーネット・コールマンの「Crossroads」。

ポールがカーラと結婚していたのがいつからいつまでなのか、今ひとつ良く分からないのだが、私の理解では、知り合ったのが1956年(当時カーラはニューヨークのジャズ・クラブでシガレット・ガールをやっていてポールと出会った)、結婚したのが1957年、別居したのが1964年(マイケル・マントラーと知り合う)、離婚が1965年(翌1966年にマントラーとの間の娘のカレンが生まれている)ということではないかと思う。ポールのほうは1964年頃からアネットとの関係が始まっていて、それが60年代末のシンセサイザー・ショウへとつながっていく。ということは、このアルバムが録音されたのはカーラとの関係が完全に終わり、アーネットと付き合い始めた頃なわけで、にも関わらずレパートリーはカーラに回帰、という、まあどうでもいいんですけど、人間面白いものだなあとは思った。精悍というより色悪という感じのジャケット写真は、アネットが撮ったもののような気がするが…。

いずれにせよ、ここでの演奏はカーラが書いた決定的名曲のポールによる決定的名演とでも言うべきもので、どれも素晴らしい。カーラは極めてユニークなメロディ・メイカーで、アレンジャーとしても一流なのだが、その割に自分が書く曲自体にはそんなにかっちりした構造は無く、曖昧な部分を意図的に残している。それを、明晰を絵に描いたようなポールが好き勝手に解釈して演奏するというところに妙味があるのではないかと思う。ベースがジミー・ジフリー・トリオ時代の同僚だったスティーヴ・スワローで、不即不離という感じにピアノを巧みにフォローするのも効いている。後年スワローはカーラと結婚(はしていなかったかな?)して現在に至るわけですが…。

全くどうでもいい話だが、Mazatalanというのは本当はマサトラン(Mazatlan)で、メキシコの地名である。先日メキシコに出張して気がついた。Sideway in Mexicoという曲もあるが、このころポールとカーラはメキシコにでも旅行したんですかねえ。

冒頭を飾るのがこの曲。

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