Betwixt / Pandelis Karayorgis

Betwixt

アク—スティック・ピアノ、いわゆる生ピアノは、少なくともジャズにおいては、可能性がすでに尽きているのではないかと思うことがある。ただ弾くぶんには相変わらず楽しいし好きなのだが、音楽的にはオーソドックスなものからフリーまで、器楽奏法的にも肘打ちからプリペアドまでもうあらかた出尽くしているわけで、ピアノが入るだけで今までのジャズの伝統に押しつぶされるというか、過去の空気がもわっと立ち上がるようなところは否めない。

そのせいか、最近ではピアノレス・バンドによる演奏が増えてきたような気がする。とはいえ当人がピアニストの場合はそう簡単に転業するわけにもいかないので、エレピやシンセ、あるいはハモンド・オルガンを手がけることが多いようだ。個人的には、生ピアノとこいつらはタッチから何からほとんど別の楽器という気もしますが…。

先日たまたま買ったこの作品のリーダーはパンデリス・カラヨーギス(と読むのではないかと思う)という人で、名前からなんとなく見当がつくようにギリシャ・アテネの出身。1962年生まれで本国では元々経済学を勉強していたらしく、それが23歳になって渡米してニューイングランド音楽院入り。ジャズ・ピアノを学び、ポール・ブレイやジミー・ジフリー、ジョージ・ラッセルといったあたりに師事して、モンクやトリスターノの研究をしていたとのことだ。面識はおろかさっきまで全く知らなかったのだが、なんとなく親近感が持てる経歴である。おまけにサン・ラーの曲とかやってるし。

カラヨーギスがこの2008年のアルバムで全面的に弾いているのは、生ピアノではなくフェンダー・ローズなのだが、70年代フュージョンとかスピリチュアル・ジャズとかで多用された、ローズ本来の(?)ちょっと柔らかめで澄んだ音はそもそも全く使う気がないんだなというのが分かる、歪んで濁りまくったオーバードライブ気味の音でごりごり弾き倒していてうれしくなる。アンソニー・コールマンもこういう音を使って成功していたが、今さらローズでジャズ弾くならこうでなくっちゃねえ。同じトリオでもメデスキ・マーチン&ウッドのようなジャムバンド系の音とはちょっと違う、重心が低くて苦みのあるサウンドだ。ベースとドラムスも(私にとっては)無名の人だが、バンドとしてなかなか良いまとまり具合を見せている。

レパートリーも、自作、モンク(ただしかなりチョイスが渋い)、エリントン、ウェイン・ショーターと、まあ最近ではありがちな選曲に、サン・ラーの「Saturn」とか、ミシャ・メンゲルベルクの「Hypochristmutreefuzz」とか、さらにはかの「伝説のハサーン」こと超幻のピアニスト、ハサーン・イブン・アリの「Off My Back Jack」とか、一貫性があるようなないような曲をいろいろ取り上げているが、別にひねった解釈ではないのにどれもおもしろい。なんだかローズ(はちょっと無理なのでNord Electroくらいかね)欲しくなってきました。置くところ無いけど…。

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