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すぐ勝てる!急戦矢倉 / 及川拓馬

すぐ勝てる!急戦矢倉 (マイナビ将棋BOOKS)

子供のころは将棋が好きで、さすがに町道場等には通わなかったものの、学校で友達と結構指していた。羽生七冠フィーバーのころの話。

以来20年以上将棋は見るのも指すのもご無沙汰という感じだったのだが、数年前からプロ将棋をちょくちょく観戦するようになり、最近では将棋ウォーズというサイトで結構指している。まあ何事もちゃんとトレーニングしなければダメで、将棋ならたとえば詰将棋を相当コンスタントにこなさないと強くはなれないのだが、強くなったところでyomoyomoさんのように性格がひん曲がって寂しい人生を送るのがオチなので、暇つぶしと割り切って楽しくやっている。

ご多分に漏れず私も元は振り飛車一本槍で、それも最近のような序盤から細かく研究された繊細な戦術ではなく、とりあえず飛車振って角道止めて、相手が動いてきたらポンと角道開けて後は野となれ山となれ、みたいないい加減なやつだったのだが、昔はこれで良かったものの、近年では飛車を振ると大体居飛車穴熊の堅陣に逃げ込まれ、これがなかなか面倒である。そうでなくても最近はどいつもこいつも藤井猛や渡辺明の本などを読んで勉強していて、生半可なことではなかなか勝てないわけですよ。というか、そもそも振り飛車という戦法は大体において、細けえことはいいんだよ、みたいなアバウトなところがあったのだが、最近ではねちねちと辛気くさい神経戦になりがちで、往年の魅力に欠けるように思われるのである。特に後手番は辛い。ゴキゲン中飛車も試してはみたんですがね。

そんなわけで振り飛車をややあきらめまして、居飛車でレパートリーを何か一つ持とうと思っていたのだが、この本はそういう用途にぴったりだった。「すぐ勝てる!」というようなタイトルの本を読んですぐに勝てたためしがないのだが、

  • 主導権が握りやすく
  • 攻撃力、破壊力が抜群で
  • すぐ覚えられて、すぐ使える

戦法を紹介、という趣旨のシリーズのようで、私のような根性のないボンクラ向きである。棋士の及川拓馬(なかなかイケメンのまだ若い人のようだ)著ということにはなっているが、おそらくは構成としてクレジットされている観戦記者の大川慎太郎が相当手を入れているのだろう、大変読みやすい。

矢倉戦というと私のようなものには、相矢倉でがっぷり四つに組み合ってごちゃごちゃとややこしい応酬が延々と続く、定跡をちゃんと覚えていないとすぐボコられる、めんどい、うざいというような牢固たる偏見があったのだが、急戦矢倉ははっきり言っていわゆる矢倉とは別物で、なんといいますか駒を全部前線に送ってしばき倒すノーガード戦法ですよね。帯には「実力差も自玉の薄さもものともしない急戦矢倉の破壊力」とあり、まあ実力差があったらさすがに勝てないような気はするが、気分としてはよく分かる。角のにらみを活かし、ツボにはまるとあっという間に一刀両断、このあたりの感覚は右四間にも似ている。

内容は5章に分かれていて、最初の2章で米長流急戦矢倉の先手番と後手番、次に△5三銀右急戦(いわゆる阿久津流)、さらに田丸流△5三銀左戦法、そして最後に矢倉中飛車を解説という構成。それぞれに「過激度」がつけられていて、米長流が過激度3、△5三銀右が過激度2、田丸流が過激度MAXの5、矢倉中飛車が過激度2とされている。過激度ってなんやねんという話だが、まあノーガード感というか、後戻りできない感というか、片道特攻感というか、そういうことなんでしょう。ただし当たり前だがどれも単純なハメ手ではないので、最善を尽くして防戦されても急戦矢倉側が一方的に不利になることはない。せいぜい互角、というかしょせん先後とも玉が薄いので、「あとは強いほうが勝つ」という感じか。

米長流は、とりあえず先手番では相手が角道を止めてくれないとできないのだが、将棋ウォーズのレベルだと居飛車党でもすぐさま角道を止めてくれる人が結構いるので案外使える。また、この章のおかげで米長流の一連の流れや狙い筋のようなものが分かりやすくなっている。後手番の米長流に関しては私のようなものでもなんとなく知っていて、決定的対策が出て廃れた戦法だと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。▲3七銀と上がって早めに7九に角を引き、2筋から1筋に角を進出させて後手を牽制するという先手のポピュラーな対策には、早めに端歩を突いて角を出させずに6筋から軽く攻める手法が紹介されていて、確かにこれでそこそこ行けそうである。△5三銀右はかつて阿久津主税が連採して好成績を挙げ、さらに2008年、羽生を相手にいきなり3連敗してカド番に追い詰められた渡辺が新手を二つも出し、3連敗後の4連勝で竜王位を防衛したことで有名になったものだが、これは金銀を柔軟にストレッチさせるような展開が続き、割と持久戦的。田丸流というのは全然知らなかったが、田丸昇が得意としている米長流の一種のようで、片方の銀を動かさない代わりに数手早く速攻を仕掛けるという、過激度MAXにふさわしい暴走戦法。△5三銀左というのは対振り飛車急戦ではよく出る手だが、それは基本的には飛車が振られて2筋を攻撃してこないから成立するわけで、対居飛車の場合厳密には無理筋のような気がせんでもないのだが、銀がそっぽに行く分薄くなる角頭のケアがある程度できれば、ごつごつと駒がぶつかりまくるハードな打撃戦が楽しめる。矢倉中飛車は昔からある指し方で、最近は矢倉の組み方が変わったのでなかなか発動しにくいようだが、これも有力ではある。

というわけで、急戦矢倉は私のような居飛車ビギナーがアマ底辺レベルで楽しく指すにはちょうど良い戦法だと思った。次は相掛かりに手を出してみようかな。



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