Have You Met This Jones? / Hank Jones

Have You Met This Jones?

2年前、「このところMPSレーベルの再発が地味に進んでいてうれしいのだが(しかしいつまで経ってもバリー・ハリスやハンク・ジョーンズのトリオものは出ない)」とぼやいていたのだが、いつの間にか両方とも出ていた。ありがたいことである。本稿で取り上げるのはハンク・ジョーンズのほう。

ハンク・ジョーンズというと、一般的には地味で保守的で趣味の良いピアニスト、あるいはパナソニックのコマーシャルで「ヤルモンダ!」と叫んでいたおじいちゃんと言う認識だと思うが、私が思うに、この人は相当な変態である。もちろん音楽的にということだが、例えば彼のコード付けを検討してみると、発想としては理解できるが下手にやると相当ヘンテコに聞こえそうなことを平然とやっている。にもかかわらず、ぼんやり聞くとふんふんいいね、洒落てるねくらいで聞き流せてしまうところが尋常ではないのである。ハンクのハーモニー・センスはトミー・フラナガンやシダー・ウォルトンと言った一世代下のピアニストたちと比べても際立っていて、ある意味ハービー・ハンコックあたりに匹敵するといってもおかしくないと思うのだが、これがハンクのキャリアが長持ちした一因だろう。

もう一点、ハンクについてあまり語られないこととして、この人は案外出来にムラがあるというか、精神状態が演奏内容にダイレクトに影響するタイプだったように思われる。もちろん高い技術を備えているし、長年スタジオ・ミュージシャンもやっていたので、どんな時でも一定の水準までは持っていくのだが、そこから先は気分次第、気分が乗らないと、形こそ整っているものの退屈な演奏に終始してしまうこともある。特に、残念ながら最晩年はそうした演奏が多かった。

1970年代はグレート・ジャズ・トリオで久々に注目されたからか、スタジオ仕事をやめてせいせいしたからか、気分が相当昂揚していたと思しく、すでに年齢的には還暦近かったにも関わらず、元気いっぱいの快演が多い。私は同時期にMuseやBlack & Blueへ残した録音を愛聴しているが、このMPS盤も期待通りで、ハンクの演奏する喜びのようなものが直に伝わってくる。出だし一曲目からしてThere’s A Small Hotelみたいな古くさい曲にえぐいアレンジをかましてみたり、Like Someone In LoveやNow’s The Timeみたいな手垢のついた曲にも一ひねり加えてみたりと、もうやりたい放題である。ベースとドラムスはヨーロッパの人だが、この頃になるとすでに本場の一流どころとも(特にリズムの面で)十分互角にやり合える力量を備えているので、何ら問題がないのも良い。個人的には5曲目のWe’re All Togetherが、ちょっとWoody’n You入ってるアレンジも含めてあまりにもノリノリで気持ち良くて、こればっかり聞いています。

これは私が好きな同時期のMuse盤に収録されている演奏。この訳のわからんアレンジはおそらく弟のサド・ジョーンズによるものだろうが、ハンクが書いていたとしてもおかしくない。末弟エルヴィン含め、三兄弟揃って変態だったなあ(褒めています)。

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