サイドマンとしての日野皓正
子供を往復ビンタしたとかで最近妙に話題の日野皓正だが、まあたしかに暴力はいけませんが、彼が戦後日本随一のジャズ・トランペッターであることは間違いない。もう74歳なんですね。
大ざっぱに言えば日野は1960年代主に日本で活躍し、70年代に入って渡米したわけだが、70年代と言えばアメリカはジャズはファンクやらディスコやらに食われて大不況の時代で、巡り合わせが悪かったという気はする。それでもこのころ、流れに棹ささず頑張っていた実力派のリーダーの作品に日野は多く参加していて、なかなか良い演奏を残している。率直に言えば、数多いリーダー作よりもこうしたサイドマンとしての参加作のほうが、自由闊達に吹いていて魅力的なような気もする。
それにしても、その世界の本当の一流と、彼らの全盛期に、何かのバーターや相手の温情ではなく普通に「仕事」として共演していた人というと、ジャズでは日野と秋吉敏子くらいしか思いつかない。もちろんその後もそれなりに良い作品を残しているし、若手育成の業績も偉大だとは思うが、やはり異国で食っていくんだという気負いがこの時期に特有の異様な緊張感を生んでいたように思う。
日野がワンホーンでばりばりラッパを吹きまくっているのに加え、トニー・ウィリアムズがドラムスを叩きまくっているのでその筋の人にはよく知られているアルバム。気の毒な訴訟で一部に有名なセシル・マクビーがベースでがっちり下支えしている。あれ、ピアノは、というかリーダーは誰だっけ…。
ヨアヒム・キューンは凄いテクニックと高度な音楽性を有するピアニストだとは思うが、正直に白状すれば、なんと言いますか、余裕がなくてキツいのであまり好きではない。それは私がプログレが苦手な理由でもあるのだが、これくらい徹底的にやられると、恐れ入りましたというか、これはこれでいいやと思う。日野に加え、フィリップ・カテリーンのギター、アルフォンス・ムゾーンのドラムス、ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションという凄いメンツ。
ベーシストがリーダーというと、大体ベースが目立ちすぎてバランスが悪いか、あるいはあまりにも目立たなさすぎて誰がリーダーか分からんという感じで、微妙な仕上がりのものが多いような気がするが、この時期のサム・ジョーンズのリーダー作はどれも完全無欠のハードバップという感じで素晴らしい。座付き作曲家(?)ということなのか、トム・ハレルの曲を多く取り上げているが、これまた名曲ばかりである。自動車事故で急逝したテナーのボブ・バーグ、熱に浮かされたようなロニー・マシューズのピアノ、アル・フォスターのがっちりしたドラムス、そして御大サム・ジョーンズの地を這うようなベースと、役者が揃っている。ディスクユニオンの500円均一で、全く期待しないで買ったら大当たりだったという点でも思い出深い。
ヨーロッパでの録音。ピアノのマル・ウォルドロンとソプラノサックスのスティーヴ・レイシーはアメリカから、ドラムスのマカヤ・チョコは南アフリカから欧州へ逃げてきた越境者たちだが、日野もある意味エグザイルなわけで、なかなか面白いメンツが揃ったと言える。残念ながら日野入りの演奏はYouTubeにないみたい。
デイヴ・リーヴマンとジョン・スコフィールドは、楽器こそ違えど、妙に屈折した、ひねくれたとまでは言わないまでも一筋縄ではいかないセンスが共通しているように思う。このアルバムの2曲目などはこの二人の特質が良い方向に出た名演だと思うが、日野も良い味を出している。そもそもYouTubeに音源が無いのだが、Amazonプライムで聞ける。
なかなかCD化されなかったからかもしれないが、意外に知られていない(と思う)エルヴィン・ジョーンズのアルバム。デイヴ・リーヴマンと日野の二管で、彼らも頑張っているが、個人的には若くして死んだケニー・カークランドの最良のピアノが聞けると思っている。まあどうしてくれようというくらいにかっこいいですね。
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