セロニアス・モンクのサンフランシスコ

Alone in San Francisco

サンフランシスコとジャズというと、今ならSFJazzなんだろうけど、私のようなものにとってはセロニアス・モンクアローン・イン・サンフランシスコなわけですよ。たまたまサンフランシスコに来ているので、名物ケーブルカーに乗ってモンクのジャケット写真を真似しようと思ったのだが、なにせこの時期は全世界から(小生を含む)おのぼりさんがこのケーブルカーとゴールデン・ゲート・ブリッジに殺到しているわけでして、長蛇どころの騒ぎではない凄まじい待ち行列なので諦めた。

モンクは何度かサンフランシスコに来ているが、録音として残っているものはそれほど多くない。まず前掲のソロ・ピアノで、これは1959年10月21日と22日の録音。

50年代末から60年代にかけてのモンクというと、Monk’s DreamなどCBSコロムビアに移籍したあとの作品の印象が強いので、リバーサイド時代末期のものはなんとなく影が薄いのだが、これは良い油で揚げたてんぷらという感じのなかなかの名作である。土地柄(と録音の音作り)を反映してかカラっと明るいのだが、そこかしこに滲みでる深い叙情はモンクならではと言えよう。Rememberとかの解釈は実に素晴らしいですね。

翌60年には再びサンフランシスコにやってきて、当初はクラブ「ブラックホーク」で名ドラマー、シェリー・マンとの共演が予定されていた。しかしモンクは非常にプライドが高い人だったらしく、自分の単独リーダーではなく、マンとの双頭扱いというのがお気に召さなかったようだ。一方マンはマンでとても良い人だったらしく、モンクに気を使い過ぎて萎縮してしまい、結局プロジェクトは中止となってしまった。モンクのような強固な個人主義者とうまくやるコツは、人は人自分は自分と割り切って自らのスタイルを押し通すことだと思うのだが(成功した共演者は皆このタイプ)、相手に合わせて柔軟にスタイルを変えていくマンは、あまり相性が良くなかったということだろう。それでも4月28日と29日に行われた彼らのリハーサルは一応録音されていて、モンクのリバーサイド時代の録音の集大成であるボックスセット、Thelonious Monk: The Complete Riverside Recordingにおまけとして入っている。そこまで悪い演奏ではないが、モンクに今ひとつ生気がないのは明らかだ。

At The Blackhawk

で、今回調べてみてびっくりしたが、マンとの話がこけた当日の夜、急遽ビリー・ヒギンズを呼んで録音したのがAt The Blackhawkなのだった。ジャケットも地味というか機嫌が悪そうだし、おそらくモンクのリバーサイド録音の中で最も影の薄い一枚だと思うのだが、まあ大傑作というほどではないにせよ、改めて聞いてみるとなかなか良いライヴだと思った。ジャケットにカルテット・プラス・ツーと大書してあるとおり、チャーリー・ラウズなどいつものメンツに加えてトランペットのジョー・ゴードン、テナーサックスのハロルド・ランドという当時の西海岸の有望株が2人入っていて、大物モンクを迎え明らかに気合の入った演奏をしている。バンドとしてのまとまりは今ひとつだが、レパートリー的にも珍しく難曲Four In Oneなどをやっているので、いろいろな意味で新味がある。50年代末以降あまり曲を書かなく(あるいは書けなく)なっていたモンクだが、ここではSan Francisco Holidayという新曲を書き下ろしているのもポイントだ。この曲は別名Worry Laterというのだが、おそらくこれは曲名ではなく、録音時に曲名を聞かれて「あとで考えるよ」と言っただけなのではないかと思う。そんな程度の、その場で書いたような他愛もないメロディではあるが、気に入ったのかモンクはこの後も何度か再演している。

Live At The Jazz Workshop - Complete

モンクが最後にサンフランシスコで公式録音を残したのは1964年11月3日と4日で、クラブ「ジャズ・ワークショップ」でのライブだった。リアルタイムではお蔵入りして、80年代になってようやく日の目を見た録音で、ラウズを含むおなじみカルテットでの演奏。モンクのほぼ全録音を聞いた今になって聞くと、まあ、ややマンネリという気がしなくもないが、それでも冒頭ソロ・ピアノによるDon’t Blame MeからBa-Lue Bolivar Ba-lues-areに続くあたりは相変わらずぞくぞくする。というのは、私が初めて(図書館で借りて)聞いたモンクがこれだった、という個人的事情によるものかもしれませんが…。今手に入るコンプリート・バージョンより、余計なドラム・ソロなどがばっさり切られていた旧版のほうが引き締まっていてよかったような気もする。

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