ソニー・フォーチュン
ソニー・フォーチュンも今年10月に亡くなっていた。1939年生まれなので享年79か。
フォーチュンの本業はサックスだろうが、個人的には70年代最狂期のマイルズ・デイヴィスの諸作でフルートを吹いていた人という印象が強い。思えば前任者のデイヴ・リーブマンもフルートが得意だったし、この時期のマイルズはフルートを重視していたんですかね。
といってもマイルズとの付き合いは意外に短く、研究家ピーター・ロージンのサイト Miles Ahead によれば、公式録音としてはBig Fun, Get Up With It, Agarta, Pangaeaにしか参加していないようだ。ライヴも記録が残っているだけだが15回しか参加していない。ただ、なにせ「アガパン」を生んだ1975年の日本ツアーにまるまる参加しているので、とりわけ日本人には強い印象を残したと言えそうだ。
個人的にはアガパンもいいが、全曲に参加しているわけではないものの、 Get Up With Itでのフルートがフォーチュン最良の仕事だったのではないかという気がする。特に Maiysha は甘美で邪悪と言いますか、なんとも形容しがたい魅力がある。出番は少ないがフォーチュンのフルートも効いている。
そういえばしばらく前にロバート・グラスパーがなぜかこの曲をカバーし、エリカ・バドゥを擁してピチカート・ファイヴの死に損ないみたいな謎のビデオをリリースしていたが、俺はマイルズのオリジナルのほうがエロくていいと思うけどなあ。まあ何にせよ、昔の音源に注目が集まるのは良いことだと思う。
マイルズ関係以外だと、マッコイ・タイナーの Sahara への参加が重要か。当時のマッコイの人気はものすごかったらしく、古老によれば日本でも1972年に輸入盤が入ってくると文字通り飛ぶように売れたと聞くが、確かに前へ前へという力強い演奏は今聞いても気持ちよい。フォーチュンもバリバリ吹きまくっている。戦場(?)の瓦礫のなかで木箱に腰掛け、なぜか琴(?)を弾くマッコイというジャケの意味不明な感じも最高だ。昔から不思議なのだが、これは一体どういう意味なのだろうか。
ただ、Sahara はなぜか何度か聞くと飽きてくるというところがあって(たぶん曲にあまり魅力がないからだと思う)、個人的には次作の Song For My Lady のほうが好きだ。基本路線は Sahara と似たようなものだが、二曲目の The Night Has A Thousand Eyes、いわゆる「夜千」が特にそうですが、マッコイにしろフォーチュンにしろ、どことなく余裕を感じさせて聞き飽きない快演だと思う。
晩年はエルヴィン・ジョーンズのジャズ・マシーンにも参加していて、コルトレーンの息子のラヴィとも共演していた。
リーダー作も実は結構残しているのだが、今ひとつ印象が薄い。1976年のWaves Of Dreamsなんかは、知られざる名トランペッターのチャールズ・サリヴァンも入っていて、さわやかでなかなか良いアルバムなのだが、マイルズの妖気にあてられた後では、なんとなく物足りないという気がする。CD化もされていないようだ。
77年のSerengeti Minstrelも、エレピを弾くケニー・バロンやジャック・デジョネットががんばっていて悪くはないんだが、今の耳で聞くとやや古くさいかな…。
ジャズではいわゆる「サイドマン向きの人」というのがいて、他人のバンドだとバリバリ素晴らしい演奏をするのに、なぜかリーダー作はぱっとしないということが多々あるのだが、フォーチュンもその一人だったようだ。ソプラノもアルトもテナーもバリトンもクラリネットもフルートも吹けてしまうという器用貧乏もそれに拍車をかけたのかもしれない。ただ、それはミュージシャンとしての輝きを全く減じるものではない。今回 YouTube を漁っていたらウェルドン・アーヴァインのバンドにいたときのクリップを見つけたが、もうそれはそれはかっこいい。なんでこういう演奏を、自分のバンドで録音できなかったんですかねえ。というか、全容は残っていないものか。タイムマシンが欲しい。
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