Blood / Paul Bley

ポール・ブレイが遺した60年代ピアノ・トリオものは大体において個人的好みのど真ん中なのですが、その中でもこのBloodが一二を争う。その割に、ここまで不遇というか扱いが悪い作品も珍しい。

この時期のポール・ブレイにはBloodというタイトルやマルテ・レーリンクによるジャケットの絵がダブる作品があって(そもそも曲名だし)紛らわしいのだが、これは1966年 9月 、オランダでの スタジオ 録音である。Bloodと言われると、タイトルはIn Haarlemなのにジャケットには Blood と大書された1966年 11月 のオランダでの ライヴ 録音もあってそちらは何度もCD化されているのだが、それと勘違いされているのか、こちらはたぶん1990年に一度だけ日本でCD化されて以来全くリイシューされたことがない(ブートレグにはなってるのかな…)。中古CDもめったに見かけない。音楽配信にも無いのだが、例によってYouTubeにはある。

このアルバムの美点はいろいろあるが、おそらく衆目が一致するのは 6曲目の Mr. Joy がヤバい ということで、この叙情の魅力に抗うのは難しい。伝統と前衛、無情と叙情、知性と暴力といった相反する要素がギリギリの奇跡的なバランスで同居しているのがこの時期のブレイだが、この演奏がその極致だ。「ソナチネ」とか、北野武の初期の映画にも通ずる世界かもしれない。

ブレイはこの後も長いキャリアを積み膨大な作品を残すが、結局このレベルに達することは出来なかったように思う。若いときの体力や感性、あるいは無鉄砲さが揃っていないと出来ない質の表現というのが、確かにあるんでしょうねえ。

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