ヘンリー・バトラー
ニューオリンズの至宝、ヘンリー・バトラーも亡くなってしまった。一昨年くらいから末期癌で闘病中とは聞いていたので、仕方が無いとは思うが、まだ69歳ですからねえ。
1918年生まれのプロフェッサー・ロングヘアは別として、1938年生まれのアラン・トゥーサン、1939年生まれのジェームズ・ブッカー、1940年生まれのドクター・ジョンと並べると、1948年生まれのバトラーは一世代下だが、ニューオリンズ・ピアノの伝統を十分に引き継ぎつつも、先行世代には無い音楽的洗練があったのがバトラーの強みだったと思う。来日するたびにライヴで聞けたのだが、あんなにピアノが上手い人を私は他に知らない。ピアノは、ピロピロ早弾きするのは人が思うほど難しくはないのだが、きちんとビートをキープした上で、芯のある、意味のある音を叩き出すのが難しいのである。一方、ヴォーカルに関しては、本格的に声楽も学んだ人なので高度なのだが、やや生硬なところがあって好みは分かれるかもしれない。
この人も今ひとつレコーディング運の無い人で、とりあえずこれ一枚、という代表作は残念ながら残せなかったように思う。私が子供のころ図書館で借りて聞いて、今でもたまに聞くのが1992年のBlues & More, Vol. 1で、出来は良いのだが、ニューエイジとかヒーリング音楽で有名なウィンダムヒルのジャズ部門から出ていたせいか、特に注目もされなかったようだ。結局Vol. 2も出なかったようですしね。
私はこれがデビュー作だと思っていたのだが、改めて今回調べてみたら、このアルバムの前に3作も録音していたのだった。Impulse!から出ていた本当のデビュー作である1986年のFivin’ Aroundを聞くと、サイドマンがフレディ・ハバードとかチャーリー・ヘイデンとかビリー・ヒギンズとか恐ろしく豪華で、曲目も Giant Steps とかをやっているらしく、純ジャズ路線で売り出そうとしたようなのだが、時期が悪かったのかもしれない。YouTubeにある音源を聞く限りでは出来は良さそうなのだが、契約等で揉めたのか、未だにCD化はおろか配信もされていないようだ。
他にもリーダー作や参加作は何枚かはあるのだが、リズムが変だったり、サイドマンがアレだったり、なぜかオルガンを弾いていたり、バトラーのポテンシャルを十全に活かしたものは無かったように思う。そんな中バトラーのライヴの雰囲気を最も良く伝えるアルバムは、2008年のPiaNOLA Liveだと思う。これでもう少しジャケットのデザインがマシならば、心からお勧めできるんですけどねえ。
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